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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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赤い風への憧れ(20)

 なのに、術士の姿が見えない。

「それほどの力を持つ術士か」

柴は言い、紅の石を取り出した。柴の放つ大きな赤が青の石の力を砕き、イザベラを開放した。イザベラは一度地に倒れたが、すぐに身を起こした。濡れた体を気に留めることもなく、ただ、深く柴に頭を下げた。

「悠真、下りられるか?」

柴は悠真に言い、悠真は落ちるように舞風の背から降りた。その後に柴が身軽な動作で続いた。秋幸も絹姫の背から降りていた。柴は舞風の手綱を引いてイザベラに歩み寄ると、そっと手を差し出し、イザベラの頬に触れた。

 何が起こったのか、悠真には分からない。尋ねることが出来ない雰囲気があったのだ。状況が分からないのは秋幸も同じ。柴の張りつめた空気が、青の石の力に捕えられたイザベラの姿が、只事でないことだけを伝えているのだ。

 状況が分からない気持ち悪さがあった。何が起こったのか分からず、不安だけが増長していく。暗い夜のような不安。息が詰まるような息苦しさ。役所での柴の言葉から、野江の身に何かが起こったのではないかと考えられる。

「一体、何が……」

耐えることが出来ず、悠真は柴に尋ねた。不安に耐えることが出来なかったのだ。

「敵さ」

柴が低く言った。

「敵が現れたんだ。先ほど、連絡があった。黒の色神からだ。イザベラを連れていた野江が、襲われたと。野江は紫の石で救援を求める間もなく、やられた。この意味、分かるか?たまたまイザベラが一緒だったから、窮地を黒の色神が察知した。野江が一瞬で破られる。こんなこと、あってたまるか。野江は、歴代最強の陽緋だ。敵の狙いが分からない。紅を狙うつもりなら、こちらは全力で挑まなくてはならない。野江を見捨ててでも、俺たちは紅を守らなくてはならない。違う理由ならば、俺たちは野江を救出しなくてはならない。野江は、こんなところで命を落として良いひとではないのだから。火の国をこの先も導いていかなくてはならない人なのだから。敵の意図も狙いも、正体も分からない。だから、俺たちは野江の救出を図りつつ、敵の正体を探る。――分かるな。佐久が消え、都南と連絡が取れない。義藤が本調子じゃない。俺たちが動くぞ」

柴の凛とした声が深い森の中で響いた。


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