表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
445/785

赤い影への憧れ(18)

自らの変化は悠真も気づいている。悠真はかつての悠真でない。それは、村が滅びたからなのか、悠真が無色を手にしたからなのか、赤の術士と出会ったからなのか、紅と出会ったからなのか、何が理由なのか分からない。だが、悠真が周囲を見て、何かを判断しているのは事実なのだ。こんなこと、以前はしていなかった。

「もう少し、もう何年か、最前線は俺たちに任せてくれ。俺たちと、野江たちに任せてくれ。俺はかつて、先代紅の時代に野江たちに言った。同じ台詞を言った。今は、お前たちに言おう。新世代、新しい力であるお前たちにな」

柴は大人だ。悠真は改めてそれを感じた。どうやら、それは秋幸も同じようで、秋幸は心痛な面持ちで俯いていた。


「悲鳴が……」


ふと、秋幸が口にした。そして、秋幸と柴が同時に立ち上がった。二人が一寸の狂いもなく立ち上がると、畳がぎしりと音を立てて軋んだ。

「何があった、紅」

低く柴が口にした。

 紫の石だ。悠真は思った。紫の石を通じて、柴と秋幸に何かが伝わった。

「何があったんだ?」

悠真は二人に尋ねた。しかし、二人は何も言わず一点を見つめている。音に、声に集中しているのだ。

「何があった、紅」

柴が低く言った。

「こっちへ教えろ、紅」

さらに柴は言った。

「落ち着け、落ち着け紅。何があった」

柴の大きな声にも焦りがある。不完全な情報が、柴を焦らせているのだ。

「分かった、一度、そちらへ帰る」

柴は言った直後、柴の言葉は変った。次から、秋幸に言葉は届いていないらしい。秋幸も状況を把握しようと柴を見つめ、柴の言動に注目していた。

「黒の色神、何があった?」

柴はそして、押し黙った。再び口を開いた時、柴の目には炎が宿っているようであった。そして、しばらく押し黙った柴は口にした。

「分かった、二人を紅城へ返そう。あとは、俺一人で動く」

何かがあった。それは確かなことだ。なのに、何が起こったのか分からない。紅の身に何かがあったのか、別の何かがあったのか、分からない。しかし、異変は紅城の中で起こったのではないのだろう。紅城の外で何かが起こった。それは、柴が動かなくてはならないほどの窮地。だから、柴は付属品の秋幸と悠真を紅城へ返そうとするのだ。

「はあ?黒の色神、何を言っているんだ?二人はまだ前線に出すべき存在じゃない」

柴の声が少しずつ強くなっていく。

「分かっていないのはそちらだ。野江は火の国一の実力者だぞ。都南と連絡が取れない今、俺しか動ける者はいない。野江を打ち砕く相手だ。危険な目に、二人を合わせることは出来ない」

柴の苛立ちはさらに強くなる。

「ああ、そうだな。それは黒の色神の言うとおりだ。敵の狙いは分からない。――ならば、俺も一緒に帰る。紅城が安全でないのなら、俺は紅を守るために戦う。野江も分かってくれるさ。俺たちは赤の術士。紅のために戦う」

状況が困惑していることは明らかだ。

「どこにいても同じこと。それは、軍師であったという、黒の色神の言葉ならば真実であろう。黒の色神が戦乱の宵の国を統一したということも知っている。このままでは埒が明かないのも事実。ならば、ここは黒の色神の指示に従おう。だが、こちらの要求もある。動ける赤影、赤山、赤星、赤菊を紅の護衛に。春市、千夏を一時的に義藤の配属にし、朱護として紅を守るようにするんだ。黒の色神もそうであろうが、紅だって本調子じゃない。紅自身、優れた術士であり、剣士であるが今の紅がどこまで己の身を守れるか分からない。残っている義藤だって、どこまで普段の力を発揮することができるか分からない。それだけは忘れないでくれ。黒の色神、あんたも紅と一緒にいろ。そうすれば、赤の術士が紅と遺書にあんたを守るさ。――それで、俺はどこへ行く。分かった。そこでイザベラと合流しよう。そうすれば、イザベラを通じて、黒の色神と連絡が取れる。そういうことだな」

柴はそこまで言うと、深く息を吐いた。そして、大きく息を吸い込んだ。

「状況が変わった。悠真、秋幸、行くぞ。少々厄介なことだ。二人は、己の身を守ることに専念しろ」

柴が先へ進もうと踏み出したとき、障子が開き、役人村瀬が戻ってきた。

「柴殿、どちらへ?」

柴は低く言った。

「火急な用事だ。少し出かける。浅間五郎は見つかったか?」

柴が尋ねると、村瀬は言った。

「いえ、少々時間がかかりそうだと伝えに来たのですが」

「ならば、俺たちがいない間に調べておいてくれ」

柴は慌ただしく言うと、先へ進んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ