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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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赤い影への憧れ(12)

義藤の愛馬「絹姫」は優雅に歩んでいた。秋幸と悠真の二人を乗せているのに、身軽さは変わらない。一定の拍子で、振動が悠真に伝わってくる。白い毛並は、まるで生糸のよう。悠真は前を歩く舞風と舞風にまたがる柴を見た。紅城を出て、悠真たちは市街を歩いていた。やはり、馬が通るだけで、自然と人がよけていく。絹姫の毛並は、名に相応しい。生糸のように細い毛は、どの馬とも違って見えた。作り物のような横顔の義藤によく似合う。

「絹姫」

秋幸が絹姫の名を呼び、絹姫に小さな合図を送ると絹姫は速度を速め、舞風に並走した。舞風は横から現れた絹姫に警戒したのか、小さく身じろいだが、一つ柴が手綱を引くと落ち着いた。

「どうした、秋幸?」

柴が秋幸に尋ねると、秋幸は凛と答えた。

「これから、どちらへ?」

柴は前を見たまま答えた。

「役所さ。そこで、調べるのさ。浅間五郎という名をな。もう、命を落とした者の名だ。役所で死亡届けが出されているはずだろ」

柴は言い、舞風を歩かせ続けた。一定の拍子で揺れる舞風の背にまたがる柴は姿勢を正している。馬に乗ると、自然と背が伸びるから不思議だ。

「他者の戸籍を調べるには、相応の許可が必要ですが」

秋幸が言うことは最もだ。だれかれと自由に戸籍を調べることが出来るものではない。出来るのは、相応の権力と許可を持った者だ。この場合、権力とは力を持つ術士でなく、権限を持つ官府を意味する。

 柴はげらげらと大きく笑った。その笑い声に反応し、敏感そうな絹姫が一瞬柴から距離を取ったほどだ。

「問題ない、問題ないさ。一応、源三に書類は許可するような書類を作ってもらった。それでも、無理なら、まあ、任せとけって。表に生きる俺にしかできない調べ方をしてやるさ」

柴の言葉には含みがあった。それは、裏の世界「赤影」に憧れる秋幸への牽制のようであった。

「楽しみにしています」

珍しく、秋幸が棘のある発言をした。そして、ゆっくりと絹姫の歩速を緩め、再び舞風の後ろについた。げらげらと柴は笑っている。その品の無い大きな笑いは、人が自らを守るために作る心の鎧をはぎ取っていく。秋幸の真面目さや律義さを打ち砕き、本来の秋幸を引き出していく。

「お前は、そっちの方がいいよ。無理に大人になるなよ


――無理に大人になるな。


早く一人前になろうとしている秋幸への柴の言葉。柴が言うことで、秋幸の焦りが表面化していく。


――無理に大人になるな。


術士は必要な存在だ。それが、秋幸のような優れた力を持った存在なら、尚のこと。それなのに、柴は焦るなという。その発言を許させるのは、柴の持つ大きさだ。柴の大きさと余裕が、秋幸の焦りを押さえていく。


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