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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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赤い影への憧れ(11)

「秋幸は強いよな」

悠真は秋幸に言ったが、秋幸は困惑したように答えた。

「そうでもないよ。俺は、強くなりたいと願っているんだ。強くなって、赤影に入る」

「十分強いのに、なんでまた?」

悠真は秋幸の強さを知っている。野江や都南も秋幸の強さを認めているのだ。悠真が心底羨ましいと思う秋幸の強さ。秋幸は執拗なほど強さを求め、赤影に入ることに固執している。

「俺には、父も母もいない。望まれて生まれてきたのか、どうかさえ分からない」

秋幸が唐突に口にした言葉は、悠真を困惑させるには十分だった。秋幸の声が体を通じて響く。低く、暖かく、広がりを持って悠真の中に響いてくる。その秋幸の声が続いた。

「俺には、真の家族はいないが、春市と千夏と冬彦がいる。そこが俺の所属する場所で、俺はそれで十分だと思っていた。けれども、俺の心にはいつも忠藤がいた。忠藤は、血のつながりのない俺を、命がけで助けてくれたんだ。俺を助けたことで支払った、忠藤の代償はとても大きい。そこまでの代償を支払っても助けてくれた、俺はとてもうれしかったよ。幼いころの俺は、妙にませていて、人との繋がりを軽んじていた。どうせ、一人なのだと、己を守るのは己だけだと、思っていた俺に、忠藤が未来をくれたんだ。俺は、他者を守ること、命よりも大切なものを知った。忠藤の母が先代の赤丸であることは知っている。赤影は、命を捨てて戦う存在。けれども、裏を返せば命よりも大切なものを知っているということ。命よりも守るべき人がいる。それだけで、幸せだと思うんだ。俺は居場所のない存在。その居場所を、所属する場所を赤影に求めているんだ」

秋幸には確固たる意志がある。ただ、忠藤と一緒にいるために赤影を望んだのではない。所属感を求めるために赤影を望んだのではない。命を軽んじて赤影を望んだのではない。秋幸は理由があって赤影を望んでいるのだ。

「俺は赤影に憧れて、官府へ侵入した。赤影としての鍛錬を積むため。もしかしたら、俺は忠藤が赤丸でなくても、赤影を望むかもしれない。そんな俺だ。忠藤が赤丸だと知って、赤影を望まないわけないだろ」

秋幸はまっすぐだ。曲りのないまっすぐな心を持っている。

「秋幸は、すごいよな」

それは悠真の本心であった。すると、秋幸はくすぐったそうに笑った。

「俺は、不安なんだよ。不安で、不安でたまらない」

悠真は、それ以上何も言えなかった。


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