赤い影への憧れ(5)
「赤影は不幸な存在なのでしょうか?確かにそうかもしれません。でも、赤影として生きることは、死ぬことじゃない。俺は今でも覚えているんです。力を暴走させて救ってくれた忠藤の姿を。彼は、その力を使ってはならないことを知っていました。知っていたのに、俺を救うために力を使ってくれました。なぜ?その理由は分かりません。でも、俺は決めたんです。この命を、どのように使うのか、考え続けようと。そして、決めたんです。この命は、赤影として生きることで使います」
柴は大きく息を吐いた。
「馬鹿げたことを」
低いその声は、柴の独り言に違いないが、声の大きな柴の言葉は悠真の耳にもはっきりと届いた。それは、秋幸にも同じに違いない。だが、このままでは埒が明かないことを柴も知っていた。秋幸は己を曲げようとしないのだから。どれほど秋幸が赤影になることを切望しようと、赤影が秋幸を受け入れなければ、それは叶うことのない夢だ。この場で秋幸の望みを聞いたところで、何の結果にも至らない。現に赤山は黙ってしまったのだから。
「結論を急ぐな。まずは、この問題を片付けるだけだ。秋幸、それまでは黙っていろ。庵原太作と浅間五郎の正体にたどり着くまではな」
柴は大きな動作で立ち上がると、秋幸に歩み寄りその頭を軽く撫でた。
「あまり頑張りすぎるな。慌てて大人になる必要もあるまい」
柴の大きな手のゆったりとした動きを、悠真はじっと見ていた。秋幸は俯き、何も言わなかった。柴が大きくゆったりとした動きで赤い羽織を脱ぐと豪快に机の上に投げた。あまり紅城にいない柴は、赤い羽織に袖を通すことがあまり無いのだろう。その羽織は美しいままだ。
「ほら、出立するぞ。野江たちはもう出たころだろう。俺たちも、遅れてはいられまい」
柴は財布を懐に入れて、刀を腰に差すと風呂敷を掴んだ。中身は数冊の書物だ。ゆったりとした、大きな動きの柴に目を奪われていた悠真であったが、はっと我に返った。秋幸が赤影に入りたいと、口にしたことなど忘れ去れたような空気がそこにあった。間違いなく、その空気を作り出しているのは柴であった。
団子屋で会った時と同じ。柴の大きな空気と大きな色は変わらない。