赤い影への憧れ(4)
「お前、何を言っているんだ?赤影が何なのか、知っているのか?」
一度は激高した柴であったが、今は違う。柴は苛立っていたが、己を失っていたりしない。秋幸は姿勢を正し、ゆっくりと語った。
「分かっています。もともと、俺は存在しない者。――赤影が世襲制だけで成り立つものではないのでしょう?表の世界から裏の世界に入る者もいるはずです。そうしなければ、どう考えても赤影は成立しない。命を失うことが多い赤影、そして術士の力は血脈に関係ない。どこかで、俺たちのような力を持つ存在しない者を、裏の世界に入れなくてはならない。そうでしょう?俺はずっと考えていたんです。なぜ、俺はこの力を持っているのかと。そして、見つけた。俺は、赤影として生きます。赤影は力を欲しているはずです。赤影が弱っていることなんて、俺だって知っているのだから」
秋幸は揺るがない。柴は呆れたように一つ息を吐いた。
「秋幸、滅多なことを言うもんじゃない。お前はまだ若い。俺から見れば、子供でしかない。これからだろ。これまで、隠れ術士として下村登一に利用され、辛酸を舐めることも多かっただろ。これからは違う。紅の認めた術士として、確固たる未来が約束されている。術士として戦うことを余儀なくされるだろう。それは、辛く苦しい道かもしれない。しかし、術士として認められ、先へ進むことが出来る。これから、人を愛し、愛される。秋幸の未来はこれからだ。赤影になると、表の世界から消滅する。裏として、存在しない者として、狭い世界で生きることになるんだぞ。今の紅は人殺しを命ずるような人じゃないが、赤影である以上、殺戮道具として利用されてもおかしくない。表の術士を守るための盾となり、名も残さず死んでいくんだぞ。――滅多なこと、言うもんじゃない」
柴の言葉には深い重みがあった。悠真は柴と秋幸のやり取りを聞いて、何の言葉も挟むことが出来なかった。秋幸の強い意志は本物で、きっと秋幸は長い時間を費やして考えたに違いない。考えて、考え抜いた結果、赤影になると決めたのだ。そんな決断、一朝一夕でできるようなことでないのだから。秋幸のことだから、一人で考えて、一人で結論に至ったのだ。その結論を見出したのは、もしかしたら悠真が一緒にいた時かもしれない。秋幸は、そういうことを悠真に話してくれないのだから。