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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤と異色(1)

 赤を司る色神紅。そして彼女を守る赤の仲間と赤影。紅を守るために術士になった義藤。悠真は色神紅のことを思った。彼女は色神としての重圧と戦い火の国を守り続け、たった一人で戦い続けている。そんな紅を支えているのが、悠真の隣で無愛想に座っている義藤なのだ。野江、都南、佐久、鶴蔵も一緒だ。彼らは赤い色でつながっている。義藤が黙ってしまうと、悠真と義藤の間に会話はなくなってしまう。第一、悠真と義藤に何の共通点も無いのだから。悠真は思考の行き場に困り燃える灯りをじっと見つめていた。揺らぐ炎の赤も、一つの色であった。

「知っているか?」

唐突に義藤が言った。抜き身の刃のようで冷たいけれど、とても優しく、現に悠真が困らないように声を掛け続けてくれているのだろう。唐突で会話に流れが無いのは、きっと義藤が悠真に気を使い話題を探している証拠だ。そして、義藤はこのような状況になれていない。きっと佐久ならば、もっと脈絡のある話をするはずだ。

「何を?」

問いかけた悠真に小さく笑いかけ、義藤は廊下の先を見つめて答えた。

「色神は紅だけじゃないだろ。異国の話だ。火の国は他国との交流が殆どないから、普通の生活では外国に目を向けることもないが、石は色によって力が異なる。青の石は水を操る。緑の石は植物を育てる。燈の石は獣と心を交わす。黄の石は土壌を豊かにする。他にも沢山の色の石が存在する。それぞれの力を有してな。色は力を持っている。火の国には赤の色神がいて、紅の石があるからこのような生活を送っているが、他の色の石の力を持った国はきっと違う生活をしている」

悠真はいろいろな色を思い描いた。火の国は色神紅と、紅の石がある。色神を有さない国はどのような生活を送っているのか。他の色神が守る国はどのような生活をしているのか、悠真は想像が出来なかった。他の色の色神を有する国は、他の色を高貴な色としているのだろうか。赤を普通に身に付けることが許されるのだろうか。

「興味、あるだろ。この手のことは佐久が詳しいから、いつか聞いてみればいい。世界は広く気候も、土地も、動物も、植物も、火の国とは異なる。文化も、言葉も人の姿かたちさえ火の国とは異なるそうだ。海の向こうには異国がある。異国間に交流があるところもある。俺も見たことがない異国があり、赤でない色を高貴な色として讃えている。火の国は閉鎖的な国だから、誰もが勘違いしやすいんだ。他国に勝てると、他国より火の国の方が優れていると……。現実は、それが真実かも分からぬと言うのに」

義藤は悠真を見て小さく笑った。今の悠真はとても馬鹿みたいな顔をしているだろう。今まで、泳いでいた海の向こうに異国があることは知っていたが、異国に興味を持つことはなかった。義藤の話を聞いて、いつの日か、異国に足を運びたいと願うのは悠真だけだろうか。田舎者の悠真が異国と触れ合うことなどありえない。けれど、夢を見るのは自由だ。

「国力は国土と資源と石の力と民の力で左右される。火の国が持っているのは紅の石と民の力だけだ。国土も小さい。めぼしい資源もない。こんな東の島国が豊かなのはひとえに紅の石の存在があるから。そして、紅の石の力を有効に使う術士と、術士を信頼する民がいるからだ。赤は強い色だ。異色から群を抜いているが最強の石ではない。他に力を持つ石は、北の大国、雪の国が有する白の石。そして西の大国、宵の国が有する黒の石」

悠真は義藤を見つめた。

「白の石と黒の石にはどんな力があるんだ?」

悠真の問いに、義藤は少し間をおいて答えた。

「白の石はどんな傷や病でも一つにつき一度だけ癒し、黒の石は一つにつき一度だけ、一日だけ存在できる不死の異形の存在を生み出すと。どんな人でも命は愛しい。だから白の石は貴重だ。火の国は対面上鎖国を通しているが、唯一外交を取っている国がある。それは色神も石も持たない流の国。流の国は、色神を持たないが外交能力に優れた国だ。流の国の主は、行動力のある誠実な人柄らしく、火の国も流の国の主を信頼している。流の国に紅の石を渡し、代わりに白の石を手にする。それは青の石や黄の石も然り。けれども、黒の石を持っているのは佐久だけのはずだ。佐久が研究のために持っているが、基本的に火の国は黒の石を手にしていない。それは、火の国を戦乱の国にしないための計らいだ。どんな国でも不死の異形に襲われては勝てない。だから黒の石は戦争場面で貴重となる。宵の国は騒乱の国だが、現在の色神が強大な力と戦略で国を統一し戦乱を鎮めたと聞いた。今後、宵の国の色神が火の国を狙う可能性も高い。現に、何度も書が送られてきている。それは白の国だって同じだ。異国は火の国と紅の石の力を狙っている。外交面で誤り紅の石を他国に大量に渡してしまえば、その石の力で火の国は狙われてしまう。異国が狙うのは、火の国と色神紅。紅を支配下においてしまえば、紅の石を思うがままに使える。国内で争う暇などないというのに、官府は何も分かっていない。紅の石は強い力を持つが最強の石でない。火の国が滅びないという保障はないのに」

睨みつけるように廊下を見つめる義藤の横顔が心に残った。

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