赤い影への憧れ(2)
すると、天井の隙間から半紙がひらりひらりと落ちてきた。柴は立ち上がり、それを拾うと大きく笑った。
「まったく……めんどくさいことしやがって」
広げた半紙を柴は躊躇うことなく悠真と秋幸に見せた。そこには、達筆な字で書かれてあった。
――庵原太作なる人物は存在せず。
柴は大きく笑った。
「なるほど。架空の人物に罪をなすりつける。それは、誰もが考えることだ。だが、庵原太作という名が定着するということは、それなりの理由があること」
すると、再び半紙が天井裏から落ちてきた。柴はそれを拾うと、再度笑った。
「赤山、なんだかんだで協力する気があるのか、ないのか」
半紙には書かれてあった。年齢を感じさせる達筆な字で。
――先に庵原太作が現れた時、一人の男が紅を守るために命を落とした。名を浅間五郎。先代赤丸は、その死を大層悼んでいた。その死が無関係とは思えぬ。
流れるような字は、赤山の性格を表しているようであった。短時間で書いたとは思えない。字の汚い悠真が、少し憧れを持ったことは言うまでもない。
「浅間五郎か……。聞いたことないな。赤山もこれ以上知らないんだろ。すべては、先代紅と先代赤丸が封印したということか。庵原太作という架空の人物と浅野五郎が無関係だとも思えないし、先代赤丸がその死を悼んだということは、浅間五郎は紅たちの味方だということだ。にも関わらず、その存在を、俺たちにすら知らせていない。命を失ったことも知らせていない。――先代は何かを隠していた。無関係でないそのことを調べるしかないな。ありがとう、赤山」
柴は平然としている。その余裕が柴の大きさの一つなのかもしれない。