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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色を守るからくり師(17)

紅の深いため息が、紫の石を通じて野江に届けられる。

――私は、何も知らない。これまでは知らなくてもいいと思っていたし、知るつもりもなかった。もちろん、これからも知るつもりはない。だって、人にはそれぞれの過去がある。私だって、探られたくない過去の一つや二つあるからな。でも、野江、私は……

紅はそこまで言うと言葉を止めた。野江には不安なことがある。それは、己が不要な存在でないかという不安だ。どれほど振り払っても、心の隙間を縫って、不安の風は入り込む。それはたちの悪い肺病のように、じわじわと、そして確実に野江を蝕んでいく。術士の力を失えば、野江は不要な存在となる。もしかしたら、すでに野江は不要な存在で、飾りとして陽緋の座に居座っているのではないかと不安になる。鶴巳が近くにいてくれなくては、野江は平静を保つのは難しいだろう。不安と恐怖で叫びだしそうになるだろう。鶴巳の言葉が野江を支えてくれていることは事実なのだ。

 もしかしたら、紅も同じなのかもしれない。今の紅は強く行動力がある紅だ。最前線で戦い、決断力、行動力は申し分ない。野江たちを率いるに足る存在だ。

――今、都南は平静を保てていない。無茶をして戦うつもりはないだろうが、何をしでかすか分からない。義藤と赤影は、私の身勝手で散々無理をさせて、傷つけた。そして、再び柴を前線に引きずり出した。

野江には、紅に掛けるべき言葉が分かっていた。

「紅、御安心なさい。あたくしは、紅の術士よ。あたくしを使いなさい。あたくしの至らぬところも、あなたなら御存知なのでしょう。あたくしの弱さも、あたくしの未熟さも、あなたなら御存知なのでしょう。だから、あたくしに指示をだしなさい。あたくしは、戦うわ」

野江が答えると、小さく紅の声が響いた。

――ありがとう、野江。

そして紅の声は遠ざかった。


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