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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色を守るからくり師(14)


――野江、野江は自由になって良いんだよ。好きな着物を纏って、好きな言葉を口にして、好きな所に行って、そんな自由な野江が最も美しい。そんな自由な野江を、誰もが必要としてくれる。そう思うよ。


兄の言葉が野江の脳裏に響いた。今は亡き、兄の言葉だ。兄が野江を自由にしてくれたのだ。鶴巳と出会う前は、兄だけが野江を人形でなく人として扱ってくれていた。五人の兄のうち、野江に最も年齢の近い、一人の兄だけが野江の味方だった。鶴巳の言葉は兄の言葉と重なって聞こえた。

 誰に何と言われても、幼少期からの習慣は治らない。この卑屈な考え方も変わらない。ことあるごとに、悲観的で、卑屈で、自らが嫌いになる。こんな自分が嫌になる。嫌いになる。

「あっしが近くにおりやす」

鶴巳が呟くように言った。

「野江を守るのは、あっしのお役目でございやす」

今や、からくり師として誰よりも必要とされている鶴巳が言った。変わりのいる術士と鶴巳は違う。野江が倒れれば、義藤が陽緋として立つだろう。だから、野江の変わりはいると言える。術の力では野江は義藤に負けはしない。しかし、男と女の違いは明確だ。剣術で、野江は義藤に抜かれる。力は術だけでない。野江は己が死んだ後の未来に不安はない。もっとも恐れているのは、力を失い生き残ることだ。

立場としては、野江が鶴巳を守る役目だ。なのに、鶴巳は野江を守るという。なんとも可笑しな話だ。可笑しな話なのに、鶴巳が野江を守るということに、安心を覚えるのだ。野江は鶴巳に目を向けた。鶴巳のぼさぼさ頭は昔から変わらない。ぼさぼさの前髪に隠れた目からは、何の思いも読み取れない。しかし、隠れた目の温かさを野江は知っている。

「鶴巳、行きましょう」

野江は鶴巳から目を離して言い、鶴巳は何も言わずに頭を下げた。


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