緋色を守るからくり師(12)
野江は佐久の身を案じた。佐久が消えたことは赤の仲間であれば周知の事実。あの佐久が姿を消すなど、信じられない。しかし、それ以上に佐久が捕えられるということの方が信じられないのだ。都南が不安を覚えるのは当然の流れだ。野江でさえ、心中穏やかでないのだから。
「何か、見つけやしたか?」
鶴巳が首を左右に振って暴れているのを、鶴巳が手綱を引いて押さえつけていた。鶴巳は朝霧に対して遠慮をしていなかった。暴れるなら手綱を強く引いて首を抑え込む。野江でさえ、ひるむ朝霧に対して、鶴巳はひるんでいなかった。
「いえ、でも、鶴巳。御覧なさいな」
野江は小屋の扉をひらいた。小屋といっても、半分地中に埋もれるような形になっている。その扉の奥には、多数の瓶や箱が置かれていた。
「破壊された建物から少し離れているし、半分土の中の小屋だから破壊されなかったのね。ほら、御覧なさい。きっと、薬師の集めたものなのでしょうね。大半は、赤丸たちの戦いで失われてしまったけれど、ここにも残されているわ。葉乃は一流の薬師よ。あとで、この薬草たちを紅城へ届けましょう。葉乃ならば、また薬を調合することが出来るわ」
野江は数々の薬草の箱を目にとめた。
才能溢れる者への羨望は、野江の中にずっとあった。他者からみれば、野江も術士の才に恵まれた存在かもしれない。陽緋の座まで上り詰めて、歴代最強の陽緋としてその地位を確保している。術士の才が、野江を未来のない孤独な現実から引き出してくれたのに、野江は他の才に憧れているのだ。