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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色を守るからくり師(9)

 黒の色神は何かを思い、野江の前に姿を見せた。一人で動かれるのがはばかられるから、遠次を連れてきたということなのか、誰かが野江を案じ、二人に依頼したのか、野江には分からない。野江にとって、鶴巳を安全な紅城に残していきたいという思いの反面、鶴巳と一緒であれば安心するという面もあるのは事実だ。二つの葛藤の中で迷う野江に、確かな道を指示したのがクロウと遠次の言葉であったのだ。

「野江、あっしも行きやす」

鶴巳はクロウと遠次が立ち去ったかと思うと、息を吹き返した魚のように動き始めた。鞍を取り出し、厩の奥へと足を進めた。

「鶴巳、お待ちさないな」

野江は慌てて鶴巳を追いかけた。遠次が使えと言った、名馬「朝霧」は、気性の荒い馬だ。八歳の牡馬は、佐久の馬だった。佐久とは似ても似つかぬ気性の荒さで、二年前に佐久が刀を持つ力を失ったのと同時にに馬をに乗る力を失ったため、背に乗れる者はあまりいない。野江も乗れなくはないが、朝霧は気分屋のため、あまり好んで乗ろうとはしない。それは、都南や義藤も同じだ。その朝霧に、鶴巳が乗ろうというのだ。

 鶴巳は立ち止まり、振り返った。ぼさぼさの前髪に隠れて、鶴巳の目は見えない。きょとんとしている鶴巳に、野江は続けた。

「あなた、朝霧に乗るおつもり?他にも馬はいるわ」

鶴巳は何も答えずに、鞍を手にした。

「鶴巳?待ちなさいな」

野江は思わず、鶴巳の肩を掴んだ。

「大丈夫でございやす。あっしは、朝霧に乗りやす」

鶴巳は、厩の奥へ足を進めた。


 厩の前の洗い場には、二頭の馬が並んでいた。葦毛の浮雲に、栗毛の朝霧。八歳の朝霧は今が絶頂期のような体をしていた。美しい毛並に、張りのある体は、今にも駆け出しそうな勢いがあった。

「どこへ行くのでございやすか?」

鶴巳は朝霧の首を叩きながら野江に尋ねた。朝霧は不機嫌そうな目をして、首を下げていた。耳を倒して、苛立っている。馬の調教をしている、厩番は、野江が人払いをした時に姿を消している。鶴巳は、この場に野江しかいないため、とても落ち着いている。身軽な動きで、朝霧の鞍にまたがった。朝霧は不快そうに首を振ったが、鶴巳は遠慮なく手綱を引いて押さえつけた。


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