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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色を守るからくり師(5)

 鶴巳は手際よく浮雲に鞍を取り付けた。鐙の長さを調整する必要はない。牛側で作られた鞍は、野江の体になじんでいる。

 野江に鞍の取り付け方を教えてくれたのは、鶴巳だった。馬という大きくて賢い生き物について教えてくれたのも、鶴巳だった。

「野江、あっしも行きやす」

鶴巳は頑なだ。その鶴巳は浮雲の頬を撫でていた。こうなると、鶴巳は頑としてでも納得しない。野江は一つ息を吐いた。これから先に、鶴巳を連れて行くことはできない。鶴巳は、自らの価値を知らないのだ。鶴巳が何と言っても、鶴巳を連れて行くことは出来ない。

野江は陽緋だ。術士としての才覚を有し、先代紅によって紅城に招かれた。戦うことも、その身を敵の前に晒すことも、傷つくことも、傷つけることも、命を奪うことも、命を奪われることも、すべてが陽緋としての使命だ。野江は陽緋だから、陽緋としての立場が保障されている。生活も、人間関係も、保障されている。陽緋だから、多くのものを手にした。だから、戦わなくてはならない。責任があるのだ。使命があるのだ。

 鶴巳はからくり師だ。紅城へ足を運んだのは、野江の付属品のような形であったが、紅城に足を運んでからは、術士として柴の下で訓練を受ける野江とは反対に、鶴巳はからくり作りを始めた。元来、手先が器用である鶴巳にとって、食べるために働かずに、からくり作りに熱中することが出来る時間は、初めてで貴重だったはずだ。鶴巳はからくり師として、様々なからくりを生み出してきた。これからも、生み出し続ける。鶴巳が作り出した数々の作品は、野江を助け、野江の後に続く陽緋を助けるだろう。それが、鶴巳の使命。からくり師としての使命なのだ。稀代のからくり師が生み出した作品は、火の国の未来を変える。


 今、鶴巳が野江を守るのではない。野江が鶴巳を守らなくてはならないのだ。鶴巳が、その身の大切さを知らないのだから。


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