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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色を守るからくり師(4)

 前足を振り上げた浮雲は首を振り、野江の体を突き飛ばした。浮雲に突き飛ばされた野江の体は、いとも容易く跳ね飛ばされて、野江は大きく後ろへよろめいた。地面に叩きつけられる衝撃を覚悟した野江であったが、固く冷たい大地に叩きつけられる前に、暖かく大きなものに包まれた。

「野江、あっしが変わりやす」

野江を包み込んだのは、鶴巳であった。鶴巳は野江を背中から包み込み、鶴巳のぼさぼさの髪が野江の頬に触れた。

「あっしの役目です」

鶴巳は優しい声で野江に言うと、そっと野江から離れた。昔からそうだ。鶴巳はそういう人だ。

「あっしに任せてください」

鶴巳が離れると、野江の背中が寂しくなった。鶴巳の温もりが消えて、夏が近いというのに寒さを感じたほどだ。

 鶴巳は立ち尽くす野江を横目に、そっと浮雲に歩み寄った。

「いい子だね」

鶴巳は浮雲の頬をなでると、自らの頬を浮雲の頬に当てた。すると、浮雲はなんとも気持ちよさそうに目を閉じたのだ。

 昔からそうだ。鶴巳は動物に好かれる。それは、鶴巳自身が小動物のようだからかもしれない。鶴巳は人よりも、動物に近いのかもしれない。


――あっしは、人ではありやせん。


昔、野江が幼いころ、鶴巳が野江に言った言葉が今でも胸に焼き付いている。野江を守ろうとしてくれていたころの、鶴巳だ。野江は自分一人で生きる力が欲しかった。だから、術士の力を持っていることを知った時、野江は神に願いが届いたように思えたのだ。野江は裕福な家の生まれだから、術士でなくても生きるに困らなかっただろう。しかし、野江はそれでは死んでいた。体が生きても、心が死んでいた。


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