白が欲する色(20)
この国を守り、冬彦を救った赤の色神紅はどのような人なのか。何となくは分かる。冬彦のような聡明な子供が、赤の色神に対して計り知れない恩義を持ち、忠義を示している。ソルトのように、脅し縛り付けたりはしない。ソルトよりも、ずっと優れた色神であることは確かなのだ。
「普通の人だよ」
冬彦は端的に答えた。
「普通で、仲間を信じている。紅は、仲間に恵まれて幸せだって言うけれど、紅が仲間を集めるんだ。その強さとまっすぐさに、俺たちは惹かれているんだ」
ソルトも分かっていたことだ。何をどう変えても、冬彦は赤の術士だ。その力は、赤の色神のためにある。白の一色を持っていても、その力と色は赤の色神のために使われる。赤の色神の近くにいるのが、冬彦の使命だ。何度も、何度も、それを痛感するのに、ソルトは受け入れることが出来ないのだ。
「とても、強い人なのね」
ソルトは思わず口にした。直接の面識がなくとも、冬彦の言葉の端々から伝わってくる。
「強くて、弱い人だよ。こんな俺でも、彼女を守りたいと願うほどね」
冬彦の言葉は、赤の術士として当然の言葉だ。なのに、ソルトは辛かった。辛くて、どうしようもなかった。白と赤は決して交わることをしない。色たちが争っているように、色神も争う定めなのだ。赤の色をソルトは知らないが、あの軽薄な白のこと。嫌われていることは明らかだ。
――ソルト。私のソルト。
ソルトの目から涙が零れそうであった。ソルトの体に涙があるのか分からないが。
――私の愛しいソルト。貴女は、私が守ります。
なぜ、白はソルトを生かしているのか。こんな反抗的なソルトに執着するのか、ソルトには分からない。色は色神の命を握っているのだから、さっさと殺してしまえばいいのに。ソルトは思った。なぜ、生きているのか。こんな体で、答えも分からず、なぜ生きているのか。
――ソルト。
白の言葉がソルトの中で響いたが、ソルトは無視した。涙が出そうな心をぐっと押し殺し、俯いていると温かいものにソルトは包まれた。すると、いつの間にか冬彦がソルトにコートのような上着をかけてくれていた。どうやら、宿のものらしい。
「季節外れだがな」
少し笑いを込めて言った冬彦は、静かにソルトから離れた。上着の襟を寄せて、ソルトは俯いた。温もりが心を満たし、嬉しさを募らせた。