白が欲する色(19)
雪の国の冬は厳しい。だから、医学院が必要だ。それなのにソルトは医学院を廃止した。医学院を容認していた歴代のソルトと白を責めつつ、ソルトは廃止の決定を下した自分の判断に葛藤しているのだ。
「火の国がそんなに恵まれているか?この国にだって貧富の差がある。鎖国をしている火の国は、一度疫病や天災が国を襲えば、異国から救いの手が差しだされることはない。多くの民が命を落とすんだ。同時に、貧しさから口減らしのために子供を捨てる親がいる。捨てられた子供たちがいる。官府と紅は争い、私欲に溺れた者は弱き者の命を虫のように扱う。それでも、皆、生きている。幸せになることを信じて、己の足で立っている。俺も、そうやって生きてきた。だが、一人で生きることは辛い。俺は、分かったんだ。紅に包まれていることでの温かさを知ったんだ。色神なんて、そんなもんだろ。己の足で立つことに疲れた者に、そっと希望を与える。色神としての希望を与える。そのくらいしかできないだろ。色神だって、人間なんだから」
冬彦は高みにいた。ソルトは年齢の割に聡明だと言われて、色神として戦ってきた。大人を罵倒し、色神としての地位を守ってきた。そんなソルトに諭すようなことを、子供である冬彦が言う。彼の強い一色。揺るがない色。それは、彼自身が歩んできた人生から育て上げた色なのだ。
火の国は平和な国だ。人は笑い、信頼がそこにある。紅はどのようにして、色神として火の国を守り、火の国を見ているのか。ソルトは興味を持った。雪の国で生きる人にも、ソルトのいる城の前に群がる人にも、火の国の赤の色神のような存在が必要なのかもしれない。命を扱うことが出来る優れた白の石を持つ雪の国であっても、真に豊かなのか分からないのだから。
「赤の色神紅は、どんな人なの?」
ソルトは冬彦に尋ねていた。