白が欲する色(16)
ソルトは低い机の前にあるクッションの上に座っていた。クッションは薄っぺらくて、不思議な感じがした。冬彦は部屋の隅に座っていたかと思うと、ふと、言葉を発した。
「俺は一体、どうなるんだ?」
少し怯えたような、困惑したような冬彦の言葉だった。ソルトは冬彦を捕えた。彼の稀な一色に惹かれ、彼の一色を近くに置きたいと思った、すべては、ソルトが冬彦の一色を欲したから生じたことなのだ。
「なぜ、白の色神は火の国へ?」
冬彦の言葉は端的で、オブラートに包むことを知らない。そこにあるのは単純な興味と、恐れることを知らない勇気だ。
「白の色神と黒の色神は同じ目的で火の国へ来たのか?」
冬彦はソルトと一定の距離を取ったまま口にした。ソルトが命じたとはいえ、アグノはソルトのことを冬彦に預けて離れた。それは、アグノが冬彦に対して何かしらの思いを抱いているからだ。アグノは冬彦の持つ一色のことも、ソルトが冬彦に惹かれていることも知らない。単純に、白の石の力を引き出すことに優れた術士だとしか思っていないはずだ。ソルトが欲した色を、アグノは信じてくれた。それだけで、ソルトが冬彦に対して信頼の念を抱くのは普通のことだ。
正直なところ、黒の色神とソルトが火の国で求めているものは違う。黒の色神は、色が欲するように、無色を欲しているはずだ。しかし、ソルトは無色にそれほど興味を抱いていない。ソルトの興味を惹くのは、今、ソルトの目の前にいる白の一色を持つ者だ。
「同じで違うわ」
ソルトは言った。それ以外の表現はできない。火の国に存在する稀な色を持つ者を欲していることは事実。それが、黒の色神は無色で、ソルトは白の一色を持つ者だということ。