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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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白が欲する色(15)

 火の国の宿は靴を脱いで入るらしい。冬彦がひっそりと、物事の分からないアグノにすべてを教え、ソルトたちは宿の奥へと足を進めた。冬彦がソルトを案内した宿は、それなりの設備のようで、部屋にタオルや風呂が備え付けられていた。草を押さえつけたような部屋に入る前の板間で、冬彦はタオルをソルトたちに手渡した。タオルにしては毛がなくて、平面で平べったかった。冬彦は板間の戸を開いて、服を取り出した。

「浴衣だ。白の色神は濡れていないが、あんたは濡れてるだろ。風邪をひく」

冬彦はもう一着服を取り出した。

「悪いが、俺も良いか?俺の方が風邪をひきそうだ」

冬彦が笑い、そして続けた。

「風呂に入れば、温もる。なんだったら、入れよ」

しかし、アグノは首を横に振った。それでも、アグノの冷たい手をソルトは知っていた。アグノは疲れている。ソルトを守り、ソルトを抱えているのだから。ソルトは知ってるからこそ、アグノに言った

「アグノ、行ってきなさい」

命令という形でなければ、アグノは遠慮する。アグノはソルトを守る番犬だから、安全な場所でなければソルトから離れない。雪の国でない、城の中でない、火の国の中であれば尚更だ。アグノは火の国を危険な国だと考えているのだから。

「アグノ、行ってきなさい」

もう一度、ソルトはアグノに言った。アグノが躊躇っているのは分かる。ソルト一人では、身を守ることが出来ないのだから。

「俺がいる。信じろよ」

ふと、冬彦が信じられないことを口にした。まるで、冬彦がソルトを守ると言っているようであったのだ。

「俺のことを信じていないのは分かる。でも、少しは休まないと、あんたの身が持たない。白の色神は、柴を救ってくれた。ならば、紅に危害を加えようとしているわけじゃないだろ。そして、今、白の石を持たない火の国にとって、白の色神は守るべき存在だ。俺のことを、信じてくれないか?逃げるなら、とうに逃げてる。だって、俺は石を持っている。あんた達と戦うことなんて、容易い。俺は、小童だが、それなりに優れた術士だと自負しているんだが」

冬彦は強い。不意打ちとはいえ、術士の女を一瞬で倒すほどの力を持っている。白の石の力を完全に引出し、いかなる傷や病さえ癒すことが出来るのは、相性だけの問題ではない。石の力を引き出す才能があるのだ。相性の悪い石であっても、強い力を引き出すことが出来るはずだ。

「アグノ、行きなさい。体が持たないわよ」

ソルトが後押しすると、アグノはそっとソルトを床におろした。

「分かりました」

アグノは柔らかく微笑み、ソルトと冬彦を草を敷き詰めたような床の部屋に案内してから、風呂だろう部屋へと入っていった。


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