白が欲する色(14)
ソルトとアグノはマントのフードを深くかぶり、異人の象徴である髪と瞳を隠すと、冬彦に連れられて都へと戻った。都は騒然としていた。音だけがソルトの耳に入り、都の人々の慌ただしさが伝わった。
「ソルト、官府が落ちています」
端的なアグノの言葉が、ソルトに現実を伝えた。黒の色神が官府を襲撃したのだろう。
「紅……」
冬彦の低い声が響いた。冬彦は赤の色神紅を案じている。そう、冬彦が守るべきはソルトでないのだ。冬彦は白の一色をもっているが、赤の術士だ。ソルトを守るのは筋違い。どれほど、冬彦の色を思って、欲しても、冬彦はソルトの術士でないのだから。
冬彦がいれば、何の不自由もない。見た目の幼さと比べても、冬彦は火の国の常識に長けている。宿番は不思議どう冬彦に言っていた。
「子供が宿ねえ」
中年の男はいぶかしんでいた。子供と、顔の見えない大男と、抱きかかえられている子供。「怪しい匂いがするな。しかも、爆発やら官府やら、こんな時期に宿とはな」
中年の男の疑りは深い。すると、冬彦は強い口調で言った。
「客商売だろ。こんな時だからこそ、上客は逃がすなよ」
冬彦は言うと、アグノが預けておいた布財布を台の上に乗せた。財布の中から金が零れ落ちる。
「こちらは、北陸からいらっしゃった資産家。突然の雨にひどく震えていらっしゃる。無礼のないようにしろよ」
冬彦は言うと、零れた金を財布に戻した。そして、身を乗り出すと、男に迫った。
「部屋はどこだ?」
それは、子供とは思えぬ口調であり、子供とは思えぬ荒々しさであった。ソルトは冬彦のことを何も知らないが、彼の色を知っている。白だ。ソルトを信頼させ、安心させる色だ。
「三階の菊の間を好きにお使いください。何が御用があれば、何なりと」
中年の男は、鍵を取り出すと冬彦の前に置いた。どうやら、観念したようだった。もし、姿を見せることが出来ないアグノとソルトの二人であったら、宿に入ることなどできないだろう。誰が見ても火の国の民である冬彦の力があってこそなのだ。
「ありがとうな」
冬彦は答えると、鍵を受け取り身をひるがえした。