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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤を護る者(3)

 悠真は義藤に連れられて紅城を上った。野江と歩いた時とは見える景色が異なる気がするのは、悠真の心境が変化したから。悠真は今、野江と一緒に歩いたときとは違う目的で歩いている。他者の目も気にならない。最上階に上ると中年の護衛が二人、紅の部屋の前に座っていた。二人は不信そうに悠真を見たが、隣にいる義藤を見ると慌てて頭を下げた。この場所では年齢も関係ない。義藤は力で朱護の座についているのだ。そう分かると、赤を許された人々は、気安く親しむことが出来ない存在なのだと改めて感じた。紅を支え、紅を守る存在。その存在は戦いだけでなく知的に優れ、政治にも深く関わっている。

「代わります。後は休んでください」

やはり、義藤は丁寧な口調で護衛たちに告げた。護衛たちは怪訝そうに悠真を見ていたが、赤い羽織の力は侮れない。赤は紅の権威なのだ。

「ご苦労様です」

護衛たちは深く頭を下げて下がった。冷たい廊下に残されるのは、義藤と悠真の二人きり。

 義藤は扉の前に座った。

「座れよ」

義藤に言われ、悠真も出来るだけ義藤と距離をとって扉の前に座った。義藤は悠真が初めて会った時と同じように、義藤は朱塗りの刀を立てて抱え、膝を立てて座っていた。日は暮れ、廊下には明かりが立てられ、小さな火に照らされた赤い羽織がとても美しく見えた。悠真は義藤の横顔を見ては、目をそらす。そんなことを続けていた。襲撃は確実にある。けれども、その実感は無い。思うのは、どんなに良い奴だとしても、悠真は義藤が苦手だということ。何を考えているのか分からない。

「悪かったな」

義藤が言った。そのことばの意味が分からず、悠真は戸惑った。

「刀を向けて悪かった」

悠真は息を呑んだ。やはり、義藤は良い奴でとても優しい人だ。声色が優しい。その声色は、紅に向けるものと似ている。

「それは……」

悠真は返答すべき言葉を探したが、何も思い浮かばなかった。義藤が悠真に刀を向けたのは、朱護として当然のことだ。義藤は紅を守る存在だから、紅を守るために危険な存在に刃を向けるのは当然のこと。それは強い義藤だから当たり前。しかし、義藤は優しい人だから、こうやって悠真を気にかけてくれるのだ。「強いが優しい」という義藤の人柄に悠真は気づき始めた。

「小猿が俺を恐れるのは分かる。だが、夜は長い。あまり気を張りすぎるな」

義藤はそう言うと、押し黙った。何を考えているのか分からない。悠真は辺りを見渡した。紅の住まう部屋の入り口は一つだけ。扉の前には護衛が詰めている。まるで、牢獄。紅は外へ出られない。

「一体、紅はどうやって外へ?」

悠真は思ったことを尋ねた。悠真は義藤に叱られることを覚悟していたが、義藤は笑った。抜き身の刃のような義藤の表情が柔らかく綻ぶ。

「まるで籠の中の鳥だ。歴代の紅は、外へ出ることなく生涯を終える。先代もそうさ。そんな現実を許さなかったのは遠爺と惣爺だ。二人は稀代のからくり師鶴蔵に隠し通路を造らせたんだ。その道は、先代紅の時代に完成した。紅が使う石にだけ反応する道。それを使って紅は外に出ているんだ。鶴蔵はあんな感じだが、優れたからくり師。隠し通路を造り、空挺丸を造ったんだから。良かったよ、紅は外を忘れることなく自由に生きることが出来るから」

義藤の言葉の端々から、紅への愛情が感じられた。

「義藤は、紅が色神になる前から一緒だったんだろ」

義藤は、息を吐いて天井を見上げた。

「まったく、彼らは口が軽い。確かに、俺は紅が色神になる前から一緒だった。もし、紅が色神にならなかったら、俺はまったく違う人生を送っていただろうな。赤い羽織を着ることもなかったし、そもそも術士になっていない。それはそれで、退屈な人生さ。こうやって尊敬する先輩方と出会うことも無かったし、強さに執着することも、目標に走り続けることも無かった。俺は何も後悔しちゃいない。紅と出会って、俺の人生は色を持ったのだから」

義藤は紅のために術士になった。紅に人生を捧げているようなものだ。思うと同時に悠真は疑問に思った。義藤は術士としての才覚を持っている。なのに、紅が色神にならなければ術士として生きていなかったと話す。選別から落ちた悠真と同じ状況なのかもしれない。

「義藤は、選別から落ちたのか?俺と同じように」

悠真が尋ねると、義藤は目を細めた。まるで、作り物のような横顔だった。義藤は努力を惜しまぬ天才だと、赤の仲間たちは称していた。その義藤が選別から落ちたということは想像しにくいが、術士にならなかったかもしれない。ということは、選別で選ばれて術士になるという正当な道をとってきていないということだ。品の良い義藤からは想像できない。

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