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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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白が欲する色(2)

 どのくらいの時間がたったのか、ソルトはマントの中で雨の音を聞いていた。雨粒のような小さなものは、ソルトの目には見えないが、雨音は聞こえる。雨が木々の葉を叩く音、まるで楽器の演奏のようだった。心地よい楽器の演奏は、ソルトを夢の中へと誘う。体の弱いソルトにとって、起きているだけで辛い日もあるのだ。こういう、天気の悪い日は尚更のこと。ソルトがうつらうつらと目を閉じていると、白の声が響いた。

――ソルト、お逃げなさい。

白の警告だった。

――私の愛しいソルト、火の国は危険です。

白が再度警告したのち、ソルトは強い爆発を感じた。慌てて身を起こしたが、何も起こっていなかった。現実の世界では、の話だ。ソルトは激し色の乱れを感じた。黒が大きく膨れ上がり、溢れ出ていた。

「黒」

ソルトはマントから顔を出して、空を見上げた。何も見えない。しかし、膨れる黒ははっきりと目にとれた。

「どうしました?ソルト」

アグノが心配そうにソルトを覗き込んだ。アグノの顔のさらに奥、ソルトは乱れる黒を見ていた。

 黒の色神は「クロウ」だ。ソルトはそれを知っている。クロウの持つ黒の一色が、膨れ上がっているのだ。

「クロウ」

黒の色神をソルトは思った。黒の色神の身に何かが起ころうとしている。感じたことのないほどの黒が溢れ出て、感じたことのないほどの黒がソルトを襲おうとしていた。ソルトの背に汗が流れた。心臓が悲鳴を上げるように強く脈打つ。何かがソルトを引き込もうとしている。深い奈落の外に、引き落とそうとしているのだ。

「ソルト」

アグノの大きな手がソルトの両肩を掴み、揺すった。ソルトの体は震えていた。ソルトの中にいる白が何かに引き出されようとしている。ソルトの中にある白が暴れようとしている。普段は気持ちの悪いほど冷静な白が、ソルトの中で暴れようとしているのだ。

「ソルト」

アグノの手は力強かった。答えようとしても、ソルトの体に力は入らなかった。何かが起こっている。ソルトの中の白は、膨れあげる黒に反応しているのではない。何か、また別の一色に反応しているのだ。

「何が……起こって……いるの」

ソルトは乱れる黒がいる方向を見た。

「どうしたんだ、ソルト」

ソルトを呼ぶアグノの声が強い。ソルトの中の白が暴れようとしている。こんなこと、初めてだった。ソルトと白は、ソルトが白の色神となってからの付き合いだ。白がソルトを実験体から白の色神に変えた。白が止まらない。ソルトの持つ一色が、ソルトの支配を逃れて暴れようとしている。ソルトは息が出来ず、目を見開いた。すると、ソルトの目に、白い一色が見えたのだ。白なのに、熱さがあった。ソルトはその白の一色に手を伸ばした。暴れようとしている、白の色神であるソルトの一色。目の前にある安定した白は、ソルトに落ち着きを与えた。

「どうした?」

恐る恐る発せられる声は、冬彦のものだ。冬彦の姿は見えない。けれども、ソルトには冬彦の一色が見えていた。ソルトの震える手は、そっと冬彦の手を摑まえた。正しく言えば、冬彦の手がソルトの手を包み込んだのだ。


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