白が欲する色(1)
ソルトはアグノの腕の中にいた。雨は冷たいのに、火の国は雪の国のように凍えないから、雨に濡れなければ平気だ。アグノのマントの下で、ソルトはアグノの胸にしがみついていた。
白の色神に対して逆らうことを止めた冬彦が、ソルトとアグノを森の奥に導いた。そして、大木の交わる崖の下の雨風をしのげる場所に、冬彦は案内したのだ。
「よく、知っているな」
アグノが感心したように言った。アグノの胸が近いから、ソルトの頬にアグノの声が響いた。
「もちろん、俺は森で育った。どこの森も、大体似たようなものだから。白の色神は、あまり丈夫じゃないんだろ。無理をするな」
端的に告げる冬彦は、年齢の割に大人びているように思えた。そもそも、ソルトは冬彦の年齢を知らないのだが。こうやって、意に反しながらも火の国の利益を思い、白の色神であるソルトと一緒にいる。それはソルトのためでなく、火の国のための行動だ。ソルトの行動が、火の国のためにならぬのならば、冬彦はソルトの敵となるだろう。
冬彦の持つ白の一色が、美しく煌めいた。これほどまでの白を持つ術士は、雪の国にも存在しない。なぜ、白の国である雪の国に冬彦は生まれず、遠く離れた赤の国である火の国に生まれたのか、運命のいたずらとはこのようなことを指すのだとソルトは思っていた。――ソルト。
白の声がソルトの中で響いたが、ソルトはその言葉を無視した。白は色の覇権を握ることを考えているのだろうが、ソルトには関係ない。
「雨が強いな」
アグノが低く言った。ソルトは雨風をしのぎながら、マントに包まれていた。誰も何も言わない。ソルトが口を閉ざしているから、きっとアグノと冬彦も口を閉ざしているのだ。