始まりは赤い風から(19)
片付け終えると、次は別の部屋へと案内された。そこは、柴の自室のようだった。佐久の部屋には書物が多かった。野江の部屋は丁寧に整頓されていた。義藤の部屋はとても清潔だった。そして、柴の部屋は少し広かった。不思議な布や工具が置かれていたのは、加工に使う道具だからかもしれない。
「まあ、楽に座れよ」
柴は部屋の中を適当に指差した。座布団も出さず座るのは、大きさを持つ柴らしい。柴は言うと、座ったまま書卓にいざり、木箱を出した。そこから出したのは、古びた紙束だ。柴は何をしても動作が大きい。それは、柴自身の一色が大きさを持つからだろう。
紙束を見た柴は、一つのことに目を止め、僅かに頬を緩めた。
「やっぱりな。庵原太作。どこかで聞いたことがあると思ったんだ。源三の言うとおり、十九年前のあの事件か」
柴は言うと、豪快に紙束を箱に戻した。
「ほら、行くぞ。これからが始まりだ」
柴は赤い羽織をはためかせ、立ち上がった。落ち着きがないのは、柴がそういう人なのかもしれない。
「秋幸、お前、いくつだ?」
ふと、柴が秋幸に尋ねた。
「十八ですが……」
柴はわずかに声を荒げた。
「だから敬語気をつけろよ。お前たちは、俺たち同格。義藤の奴は生真面目すぎて癖が抜けない部分があったが、お前たちは気をつけろ。この世界、年齢なんて関係ない。すべて実力が物を言う。時に己より年上の者を顎で使う日もくる。――俺が十八の頃、先代にこき使われていたもんだ。もう、十八年も前の話だ。下手したら、俺はお前たちと親子ほど、年が離れている。俺ももう三十六、年を感じるわけだ。それでも、まだまだ衰えるつもりはない。久しぶりの前線復帰だ。選別で術士となったところで、大緋や灯緋になれるのは一つまみで、陽緋になれるのは一人だけだ。お前たちは未来のある才能を持っているんだ。だから、術士として、今から最前線に立っておけ」
柴は大きい。この大きさがあると安心できるのだ。
「始まったばかりだぞ。お前たちが術士として生きるのは」
外廊下に出た柴の周りを風が吹き抜けた。柴の大きさのある赤が風に流れて、始まりを告げていた。