始まりは赤い風から(16)
「下がれ。皆、仕事に戻れ」
紅のそんな一言で、赤の術士たちは順次下がっていった。二人の官吏は、義藤に連れられていた。下がるとき、そっと柴が義藤に声をかけていた。
「変わりの朱護を呼ぶんだろ。そいつらは俺が預かっておこう。朱護を呼んできたとき、返すさ」
柴に言われ、義藤は一礼すると二人の官吏を柴に預け、立ち去った。野江たちはとっくに下がってしまい、悠真と秋幸は立ち尽くしていた。
「悠真、秋幸。お前たちは残れ。これからは、俺と一緒に動く。覚悟しておけよ」
悪戯めいて、柴は大きな笑みを浮かべた。先ほど、野江と都南の間に割って入った者とは別人のようであった。あの時は大きすぎる覇気があったのに、今の柴は穏やかさで溢れている。
「何を考えているんですか?」
秋幸が柴に尋ねた。柴はさらに大きな笑みを浮かべた。
「敬語、気をつけろ。――秋幸、俺には特技がある。それは、俺が一流の加工師であるという証拠だ。かつての時代は、紅自らが石を加工したこともあるらしい。一色をみることに長けているのは、普通、色神ぐらいなものだ。そう、俺は稀な目を持っている。なぜだろうな。そして、もう一つ。色神にしかないことがある。それは、色の暴走だ。抑えきれないほどの力を持つのは、色神くらいなものだ。選別前の野江を、術士にするために迎えに行ったのは俺だ。術士の伊呂波も知らない野江出会っても、紅の石を前にして力を暴走させることはなかった。秋幸、お前力を暴走させたことがあるだろ。それを、赤丸に助けられた。俺と秋幸は同じなんだよ。そして悠真。お前の色を俺は見ている。今、紅は体調が優れない。いつも見てきた色と違う。それは義藤も同じだ。義藤も体調が優れない。あいつは、動ける限り動くが、あまり無理をさせることはできない。紅、義藤が不調で、野江が白の色神の件で動く。都南はあんな調子で役立たず。遠爺は術士であるが、惣爺に比べて戦いには優れない。赤影も疲労している。赤丸も動けないだろう。ならば、悠真。お前は俺と一緒にいるべきなんだよ」
柴は大きな笑みを浮かべた。嫌な感じのない、大きな笑みだ。