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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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始まりは赤い風から(12)


 秋幸は柴から渡された紅の石を盤上に置くと、大の字になって畳の上に寝転んだ。

「あぁあ……」

秋幸は大きな声を出していた。何があったのかと気になって、悠真が秋幸を覗き込むと、秋幸は深く息を吐いた。

「疲れた」

その言葉の意味が分からず、悠真は目を細めた。秋幸は目を閉じて、胸に手を当てていた。

「なんだか、あの大きさは、ある意味恐怖を与えるなあ。俺は、怖かったよ」

秋幸の言葉の意味が、悠真は何となく分かった。柴の大きさは本物だ。そして、柴が意識を見ることに長けた稀な目を持っているから、恐ろしく感じるのだ。まるで、己の本質を見抜かれたような気がするのだ。一色を見ることに長けているのは、紅は黒の色神も同じだろう。けれども、彼らは色神だ。色神という特殊な位置から人を見ている。その中で、柴は違う。同じ位置に立ちながら、色を見ることに長けている。色を見て、その色が何を意味しているのか、どのような人なのか、判断する力に柴は長けている。だから自然と恐ろしさを感じるのだ。

「加工師柴。あの大きさに、先代や今の紅が救われ、野江や都南や佐久が一流の術士になるまで、じっと紅城を守り続けた重鎮」

秋幸は確認するようにつぶやくと、一動作で起き上がり、盤上に置いた紅の石を首に掛けた。

「こんなところで立ち止まっていられないな」

秋幸のその言葉が何を意味するのか分からず、じっと秋幸を見つめる悠真に、秋幸は微笑んだ。

「俺は強くなる。こんなところで立ち止まっちゃいられない。俺は、もっと、もっと、もっと強くならなきゃいけないんだ」

悠真から見れば、とても強いはずの秋幸も更なる高みを求めている。秋幸が求める高みは

どこにあるのか。悠真は問いかけた。

「秋幸は、何を目指しているんだ?」

悠真が問うと、秋幸は胸にある紅の石を握りしめた。

「俺は、強くなる。何を、目指すのか。そんなの決まっている。この力を、うまく活かすことが、俺の存在意義なんだ」

悠真は秋幸が羨ましく思った。優れた才能を持ち、その力を活かす力を持っている。そして、さらなる高みを目指すだけの努力を惜しまない。柴が秋幸を目に掛けるのが分かる気がする。

「俺も強くなりたい」

悠真は一つ呟いた。将棋の盤上でも敵わず、現実の世界でも敵わず、悠真は秋幸の背中だけを見ている。

「悠真は強いよ。十分に」

そんな秋幸の言葉も、悠真の耳には十分に届かなかった。


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