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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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始まりは赤い風から(8)

 夜寝て、朝起きて、秋幸と一緒に時間を過ごす。秋幸にねだっても、秋幸は術の使い方を教えてくれなかった。特に何もすることがなくて、悠真はごろごろと寝転んで過ごした。そうやって横になっていると、体に蓄積された他の色が、疲労と共に流れて消えていくようであった。

 その次の日。柴が紅の石を持って来た。悠真は秋幸と一緒に将棋をしていた。悠真は祖父や惣次を相手に、それなりに練習をしていたのに、秋幸に勝てそうな気配はなかった。それは、碁でも同じであった。悠真が何度目かの敗戦を目前にしたころ、大きな声が響いた。

「秋幸はいるかい?」

柴の声は大きい。きっと、彼は普通の大きさで話しているつもりだろうに、浜の漁師の掛け声のように大きいのだ。柴と会ったのは、団子屋でのこと。そこで柴は黒の色神の使うイザベラの毒に侵された。紅城に戻ってから、一度も顔を合わせていないから、再会したのはそれ以来と言える。柴は悠真を見て大きく笑った。

「無色の小猿だな。無事で良かった」

柴は大きな手で、高い所から悠真の頭を撫でた。そして、悠真と秋幸の戦いの盤を見ると、にっと笑みを浮かべた。

「悠真、ここに桂馬を打て。この負けるしかない盤の上で、少しは逃げ道が見いだせるかもしれないぞ」

柴が盤を一目見ただけで、悠真の指示をだした。定石とは程遠い、打ち方であったが、なるほどと思える場所だった。しかし、柴は続けた。

「まあ、そこに打ったところで、悠真の勝ちは薄いだろうがな。秋幸、お前強いな」

そして柴は紐のついた紅の石を秋幸の前に差し出した。

「ほら、紅からだ。疲れ果ててやっと目覚めたばかりの義藤よりも、先に加工した。春市や千夏よりも、お前のを一番に加工したのは秘密だぞ。紅が生み出した紅の石を使い、俺が加工した石を持つ。これで、秋幸も正真正銘の赤の術士だ」

柴は秋幸の手を取り、その手を開いて紅の石を握らせると、そっと秋幸の頭を撫でた。

「今まで、加工されていない石や、三流の加工師が加工した石を使っていただろ。俺の加工した石を使うと、世界が変わるぞ。これまでの数倍の力を引き出すその力、用心して使えよ。強い力は、敵を傷つけ、己を傷つけ、愛する人を傷つける。俺は、お前の力を信じているから、お前に加工した石を渡すんだ」

柴が何を思っているのか、悠真には分からない。ただ、柴という人が、秋幸のことを信頼していることは確かであった。

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