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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色の心(11)

柴にとって、野江らは子供だ。いつまでたっても、守るべき子供なのだ。そう痛感させられるのは、端々から見せる余裕によるものだ。

 柴は大きな声で笑うと、その場に膝をつき頭を下げた。

「まだまだ至らぬ術士たち。御前にて失態をお見せする形となり、申し訳ありません」

体の大きな柴が、赤い羽織をまとい紅の前に立つ。それは、不思議な風格があった。野江はそんな柴の風格が好きだった。その大きな背中を見ていると、不思議な安心感を覚えるのだ。しかし、柴は陽緋と朱将という役職を辞し、加工師となってからその雰囲気を一変させた。厳しさが消え去ったのだ。

「それは、先の陽緋と朱将としての言葉か?」

紅の声が響いた。すると、柴は頭を下げたまま答えた。

「左様でございます。先の陽緋、朱将として、後輩の指導不足を痛感しております」

柴は加工師である前に、野江と都南が務める陽緋と朱将の先任なのだ。紅の放つ鮮烈な赤が一層強まったかと思うと、紅はゆっくりと口を開いた。

「我の優れた術士たちよ、この非常事態に、我は我の持つ最も優れた駒を動かそう。白の色神と流の国の術士が我が火の国に来訪し、冬彦と佐久が消えた。それは、そちらならば既に感づいていることであろう。黒の色神との協議の結果、冬彦は白の色神と共にいることは間違いないだろう。冬彦は白の一色を持つ者。白の色神が冬彦に目をつけることは想像できる。そして、先ほど、赤影がそやつらを締め上げて、聞き出した情報がある。庵原太作。そやつらと同じように、庵原太作も、紅に反意を抱く者の一人ではなかろうか。どうであろう、源三?」

紅は紅に近いしい官吏である源三に尋ねた。源三は老官吏。官府の内情にも詳しいに違いない。源三は深く頭を下げて答えた。

「庵原太作という名は耳にしたことがあります。しかし、その姿は誰も知りません。先代の紅様が存命の頃、もう、二十年近く昔のことになりますが、庵原太作が一度だけ行動を起こしたことがあると耳にしたことがございます。名も知れぬ民間人が庵原太作の行動に感づき、紅様に進言したと。紅様が何をしたのかは分かりませんが、庵原太作の噂はそれきりで消えてしまいました。もしかすると、彼らは庵原太作という名を苦し紛れに吐いただけかもしれませんし、真に庵原太作が彼らの後ろにいるのかもしれません」

源三の言葉を聞いて、紅の持つ一色が変わった。普段、色を見ることが出来ない野江であっても、紅の強すぎる色ならばわかる。鮮烈な赤は痺れるような辛さを持っていた。

 痺れるような辛さを持つ紅の色を感じたのか、柴がゆっくりと顔を上げて言った。

「庵原太作の件、私に任せていただけないでしょうか?」

まさかの申し出に、野江は柴を見た。柴は陽緋と朱将を辞して、加工師となってから、術士として紅の近くにいて、紅のために戦うことと離れていた。それらの仕事を、野江や都南、佐久に譲り、柴は火の国を放浪していたのだ。もちろん、柴がもたらす情報は、紅を救う。一線を退いたとも思える柴が、庵原太作の件を任せてほしいと申し出る。それは、なんとも異質なことのように思えた。

「柴、そちが再び前線に出てこようとは、何を思ってのことだ?」

それは、野江も同感であった。柴は大きく笑った。

「私は先代の紅様の時代より、仕えております。庵原太作が出てきたとき、私は陽緋と朱将を兼任しておりました。まだ、先代紅様より立場を与えられたばかりの、なんとも弱い陽緋と朱将でございました。今、私自身よりも、野江や都南、義藤の方が優れた術士であることわかっております。それでも、私が陽緋と朱将時代にやり残した仕事、最後まで任せていただけないでしょうか?」

柴の必死な言葉が野江の心を打った。野江の知らない柴がここにいる。紅はしばらく黙したのち、口を開いた。

「分かった、柴の好きにするが良い。ただ、白の色神と冬彦の件は野江、お前が行け」

そして、紅の目は都南に向けられた。

「どっちにしろ、そちは行くつもりだろう。行くならば、一人で行け。佐久を探しにな」

都南は刀の柄から手を放した。


 都南の気持ち、野江は理解できたような気がした。

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