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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色の心(7)

 赤が基調とされた部屋。畳の緑と赤の壁が対照的で、下げられた簾の奥から紅の色が溢れていた。鮮烈な赤は、野江の心を満たしていく。野江は柴のように一色を見ることに長けていない。一色を見ることに長けていたら、加工師としての道もあったかもしれないが、優れた目を持っていない野江は加工師になれない。その野江であっても、紅の持つ強く鮮烈な赤は肌で感じることが出来る。赤の術士として、赤の色神から紅の石を与えられる立場がそうさせるのかもしれない。野江は紅の僕なのだと、実感させられる。赤の色神紅が、野江をそうしないだけなのだ。

「入るがいい」

高圧的な声色で赤い声が響く。簾の先に見えるのは、赤い装飾の施された煙管を持つ紅の姿だ。肘掛にしどけなく体を預け、重厚な赤い着物を着ている。幾重にも重ねられた着物の重さは想像するに容易い。かつて、野江もそのように着飾っていた時期があったのだから。

 美しく結い上げられた髪に、飾られた簪には赤い宝石が散りばめられている。赤い着物には金の刺繍が施され、黒い帯には赤い刺繍が施されている。袖を通さず肩に掛けただけの内掛けは、紅が動くとはらりと床に落ちた。長襦袢の半襟は、着物より少し薄い赤色で、紅の襟元を飾っている。

 紅は人に世話をされることを嫌っている。だから紅は身支度を一人で整える。一人で布団を敷き、一人で入浴する。大体は、紅城の中を動き回り、野江の近くや義藤の近くにいるのだが。つまり、この着物も髪の結い上げも、一人で行ったのだ。

 しどけなく肘掛に身を預ける紅は、まるで人形のようであった。赤い口紅も、赤く線が引かれた瞼も、美しい。野江はいつもその姿に息を呑む。

 膝をついて敷居を超えると、野江は頭を下げた。遠次、源三、黒の色神が前に並び、野江、都南、義藤はその後ろに控えた。野江が真ん中で両側に都南と義藤がいる。横目を見ると、義藤が深く頭を下げている。義藤の赤い羽織には皺ひとつなく、染みひとつない。反対側を見ると都南が頭を下げている。都南の赤い羽織は義藤と対照的だ。きっと都南は羽織のたたみ方を知らないのだ。ここに佐久がいないことが妙に寂しい。

「黒の色神。貴殿が我に頭を下げる必要はなかろう?貴殿は、我と同じく色神じゃ」

紅の声は強く、高圧的に響く。誰もが求める理想の紅だ。誰にも屈せず、誰にも虐げられず、孤高に立ち続ける、強く美しい紅。理想の紅がそこにいる。

「皆の者、頭を上げよ」

紅が言うと、紅の前にいる遠次が頭を上げた。そして何も言わずに立ち上がり、位置を移動する。上座から下座へと定められた位置が決まっている。その中で遠次が黒の色神を導きながら歩き、黒の色神を最も上座に座らせた。壁に添うように黒の色神、遠次、源三と座り、野江は立ち上がり反対側へと足を進めた。義藤が羽織を一つただし、野江と都南の後ろを歩きながら移動し、座った後、何も言わずに再び立ち上がると紅の前の簾を上げた。術士でない鶴巳は後ろの方で小さくなっている。


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