緋色の心(5)
「俺はとっくにお前たちに抜かれたぞ。気にするな」
げらげらとした大きな笑い声と同時に柴の声が響いた。歩きながら合流してきたのは、柴と二人の官吏と薬師だ。大きな柴が小さな薬師を抱きかかえている。
「お前らは強いよ。誰が何と言おうとも、それは変らない。まあ、焦るのは良いことだ。義藤、もっと、もっと強くなって、こいつらを追い込んでやれ。俺から見れば、まだまだお前たちは全員若いさ」
柴の大きさは何も変わらない。柴の余裕も何も変わらない。柴は野江にとって大きな存在だ。物事を教えてくれて、剣術を教えてくれて、術の基礎を教えてくれて、歩むべき道を示してくれる。柴が紅城に戻るだけで、野江は肩の荷が下りるような気持ちがするのだ。それだけ、柴に甘えているのだ。だから、野江は強くなれない。
「人には人それぞれの道がある。力がある。それは、他の人間と比べるものじゃないさ」
柴は豪快に笑った。まるで、野江の弱さも苦悩も見抜かれているようだった。
野江は恐れているのだ。歴代最強の陽緋として持ち上げられながら、無力な自分がただの飾り物の人形でないか。いつしか、義藤ら若い世代に抜かれて、用済みとなり居場所を失うことを。
――あたくしは、飾り物の人形じゃない。
――あたくしは、ここで生きていいの。
野江は言い聞かせた。術士は辛いものだ。悠真に術士になることを進めなかったのは、野江の本心だ。しかし、それとは裏腹に、野江は術士でなければ生きることが出来ないのだから。
先へ進んでいると、遠次と黒の色神と出くわした。遠次は流石の貫録というほど赤い羽織をはためかし、颯爽と姿を見せた。
「柴、いつもいつも声が大きすぎる。いい年なんだ。落ち着きを持つことを覚えたらどうだ?」
誰も適わない遠次の貫録に、柴だけでなく野江も都南も苦笑した。
「儂から見れば、柴も若輩者でしかない。御方もそう思うじゃろ。若者の下らぬ意地の張り合いでしかない」
遠次は柴の後ろを歩く源三に言った。
「若さとは、羨ましいものでしかないな。これから先、いかなる未来であっても手にすることが出来る。だが、私自身も諦めていない。これから先の未来を。年をとって見る夢も美しきものだ」
赤に囲まれても怖気づかないほどの貫録が源三にはあった。これが紅の仲間である官吏の姿である。年長者である遠次と源三がそろうと、野江でさえも圧倒される雰囲気がある。
野江たちは先へ進む。集団となり、前へと進む。向かうのは紅の間だ。