表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
360/785

緋色の心(5)

「俺はとっくにお前たちに抜かれたぞ。気にするな」

げらげらとした大きな笑い声と同時に柴の声が響いた。歩きながら合流してきたのは、柴と二人の官吏と薬師だ。大きな柴が小さな薬師を抱きかかえている。

「お前らは強いよ。誰が何と言おうとも、それは変らない。まあ、焦るのは良いことだ。義藤、もっと、もっと強くなって、こいつらを追い込んでやれ。俺から見れば、まだまだお前たちは全員若いさ」

柴の大きさは何も変わらない。柴の余裕も何も変わらない。柴は野江にとって大きな存在だ。物事を教えてくれて、剣術を教えてくれて、術の基礎を教えてくれて、歩むべき道を示してくれる。柴が紅城に戻るだけで、野江は肩の荷が下りるような気持ちがするのだ。それだけ、柴に甘えているのだ。だから、野江は強くなれない。

「人には人それぞれの道がある。力がある。それは、他の人間と比べるものじゃないさ」

柴は豪快に笑った。まるで、野江の弱さも苦悩も見抜かれているようだった。


 野江は恐れているのだ。歴代最強の陽緋として持ち上げられながら、無力な自分がただの飾り物の人形でないか。いつしか、義藤ら若い世代に抜かれて、用済みとなり居場所を失うことを。


――あたくしは、飾り物の人形じゃない。

――あたくしは、ここで生きていいの。


野江は言い聞かせた。術士は辛いものだ。悠真に術士になることを進めなかったのは、野江の本心だ。しかし、それとは裏腹に、野江は術士でなければ生きることが出来ないのだから。


先へ進んでいると、遠次と黒の色神と出くわした。遠次は流石の貫録というほど赤い羽織をはためかし、颯爽と姿を見せた。

「柴、いつもいつも声が大きすぎる。いい年なんだ。落ち着きを持つことを覚えたらどうだ?」

誰も適わない遠次の貫録に、柴だけでなく野江も都南も苦笑した。

「儂から見れば、柴も若輩者でしかない。御方もそう思うじゃろ。若者の下らぬ意地の張り合いでしかない」

遠次は柴の後ろを歩く源三に言った。

「若さとは、羨ましいものでしかないな。これから先、いかなる未来であっても手にすることが出来る。だが、私自身も諦めていない。これから先の未来を。年をとって見る夢も美しきものだ」

赤に囲まれても怖気づかないほどの貫録が源三にはあった。これが紅の仲間である官吏の姿である。年長者である遠次と源三がそろうと、野江でさえも圧倒される雰囲気がある。


 野江たちは先へ進む。集団となり、前へと進む。向かうのは紅の間だ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ