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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤の傷(4)

赤が悠真の前から去ると、赤で満たされていた悠真の世界は様々な色を取り戻していく。空の青、白い玉砂利、灰色の岩、茶色の外廊下、朱塗りの柱、紅が持つ鮮烈な赤色、義藤が持つ強いが優しい赤色。y悠真の世界に様々な色が満たされたとき、突然紅が振り返った。紅は赤く腫れた目を見開き、驚いたように口を開いていた。紅の様子に気づいたのか、義藤も悠真を見た。

「小猿……」

紅が口を開いた。悠真は立ち聞きしたことを叱責されることを覚悟し身をすくめた。しかし、紅は責めるどころか目を見開き、心底驚いたように悠真に言ったのだ。

「小猿、いつからそこにいた?」

義藤が怪訝そうに眉間にしわを寄せたが、紅は悠真がいつからこの場にいるのかが気になるようで、腰掛けていた石から飛び降りると、悠真に歩み寄った。

「小猿、いつからそこにいた?」

紅の問いは強く、悠真は答えるしか出来なかった。

「紅と義藤が十年一緒にいるって辺りから」

悠真が呟くように答えると、紅はますます目を見開いた。そして、けらけらと笑ったのだ。義藤が心配そうに紅に歩み寄った。

「紅、どうしたっていうんだ?」

義藤の問いに紅は笑いながら答えた。

「私はずっと色を見ていた。たとえ、私の後ろに立とうとも、私は色で気配を感じることが出来る。特に先ほどは赤丸の気配を探ろうと、色に集中していた。――なのに、私は小猿がいたことに気づかなかった。いや、これまでもずっとそうだった。私は小猿の色が分からない。不思議だよな。全ての者は一色を持つというのに、私には小猿の色が見えない。小猿、お前は何者なんだ?私は小猿に興味がある」

紅が義藤の背中を叩いた。

「義藤、悪いが今夜小猿を死なせないようにしてくれ」

言って、紅は義藤の背を叩いた。

「義藤、二年前と比べてお前は強くなっている。だから私は決めたんだ。今回、惣爺を殺し小猿の村を壊滅に追い込んだ敵の正体を知り、証拠を掴み、敵を追い詰めるために義藤が行くことを許したんだ。義藤は強くなっている。自信を持て」

義藤が笑い微笑んだ。

「大丈夫、小猿も守るし、俺も生きて戻ってくる。二年前に先輩である野江、都南、佐久、遠爺、惣爺が戦い、困難に立ち向かう姿を見た。俺自身も生きる道を示された」

義藤は深く紅に頭を下げた。

「どんな困難にも立ち向かってみせる。二年前に証明されたんだ。二年前に深い傷を抱いた野江と都南と佐久が立ち上がる姿を見て、俺は誓ったんだ。そんな傷を抱いても、どんな苦しみがあっても、己はそれを踏み越えていくのだと。痛みを超えて、苦しみを超えて、また強くなれると。戦う力も、心も、俺は強くなれると。強くなって、あなたを守り続けると。俺に存在理由を与えてのも、俺に生きる道を示してくれたのも、全てあなただから。すさんだ子供だった俺の心は、あなたに救われたのだから」

義藤は頭を上げて羽織を調えた。義藤の言葉は優しい。他人から感謝され、必要とされているのなら、どんな苦難も乗り越えていけるだろう。

 悠真が分かったことは、赤の仲間たちが秘密を抱えているということだ。品の良い義藤がすさんだ子供であるはずがない。優れた朱将である都南が紅城を去ろうとしたのは何が会ったのか。天童として紅城に招かれた歴代最強の陽緋野江はどのようにして陽緋になったのか。優れた術の力を持ちながらも、身体を動かすことが苦手で陽緋になれなかった佐久は、周囲からどのように扱われていたのか。人見知りの天才からくり師鶴蔵は、紅城でどのような生活を送っているのか。そして、十歳で色神紅となった彼女は、どのように戦い、どのような苦難を乗り越えてきたのか。赤の仲間でない悠真は何も知ることが許されない。確かなことは、赤の仲間たちの持つ一色は美しく、温かく、強く、傷を隠し続けているということだ。

「さあ、野江たちのところに行こう」

義藤は微笑み、紅の背を押した。

「大丈夫、何も案ずるな」

義藤が抜き身の刃のような顔で微笑んだ。

 悠真は赤の仲間に憧れた。赤の仲間の強い絆と信頼関係と、運命を共にするという一体感に憧れた。しかし、赤の仲間は多くの傷を抱えており、田舎者の悠真とは根本的な部分が違うのだ。

「そうだな。ほら、小猿も行くぞ」

紅が悠真に言った。紅の持つ鮮烈な赤色が、赤の仲間たちをまとめて導く赤色が、悠真を招いてくれるから悠真は赤の仲間に近づけたように思えるのだ。

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