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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色の心(2)


――みんな、集まってくれないか?


ふと、紫の石が言葉を発した。それは、野江が首からかけている紫の石だ。官府の整理に駆り出された後、野江は紫の石で呼び戻された。柴に八つ当たりし、自室に引きこもるまで、紅は何も言ってこなかった。

 紅は強く聡明だ。だから、時を待っていたのかもしれない。何かを思い、野江を呼び戻し、何かを思い、皆を集める。


――紅の間で待っている。えっと、悠真と一緒にいるのは秋幸だな。秋幸、悠真も連れてきてくれ。あと、野江は鶴蔵を、義藤は都南を、遠爺はクロウを連れてきてくれるか?これで、全員だな。よし、待っているぞ。おっと、忘れていた。柴、葉乃と可那と源三を連れてきてくれ。頼んだぞ。


 紅の言葉はいつも通りだ。いつも通り、強く、いつも通り赤く響く。しかし、その言葉に野江は違和感を覚えた。紅は術の使えない都南の迎えに義藤を向かわせた。普段ならば、それは佐久の役目だ。佐久が都南を犬のように探し出し、都南が佐久に手を貸しながらやってくる。野江が嫉妬するくらい、都南と佐久は一緒なのだ。気持ち悪いくらいの男の友情。少し、羨ましくも感じるのは言うまでもない。


 野江は立ち上がると、赤い羽織を正した。

「あたくしは、立ち止まることが出来ないわ」

野江は自分自身に言い聞かせた。

「そうでしょ、鶴巳」

野江は障子の外に声をかけ、障子を開いた。すると、外廊下に小さくなるように蹲った男がいた。野江が心を許すことが出来る鶴巳だった。鶴巳は小さく丸まり、小さな声で言った。

「野江、野江は強い。それは、あっしが一番よく分かっておりやす」

鶴巳は顔を上げた。ぼさぼさな前髪の間からかすかに見えた鶴蔵の目は、幼いころから何も変わっていない。そして、鶴巳は言った。

「あっしが出来ることは限られておりやす。あっしが出来るのは、野江を助けるからくりを作ることだけ。でも、忘れんでください。あっしを、ただの奉公人から、赤を与えられた、からくり師に変えてくれたのは野江です。あっしは、好きな物作りを続けることが出来るんです」

鶴巳は野江の弱さを知っている。野江が完全でないことを知っている。野江に完璧を求めない。だからこそ、鶴巳と一緒にいると野江は落ち着くのだ。しかし、それでは許されない。野江は強くあり続けなくてはならないのだ。野江が陽緋として生きるには、強くなくてはならないのだから。だから、立ち止まることは許されない。強く、生きた人間になるために、野江は陽緋であり続けるのだ。飾り物の陽緋でなく、力のある陽緋になるために。

「鶴巳、紅が読んでいるわよ。きっと、紅は何かするつもりよ。集められたのは、赤を与えられた者だけじゃない。術士だけじゃない。術の使えない者も、黒の色神も、全員を紅は集めたわ」

野江は不安だったのだ。紅が野江を必要としなくなることを、世間受けの良い飾りとして陽緋に据えることを、野江は不安だったのだ。

「野江は人形じゃありやせん。術を生み出すだけの道具でもありやせん。あっしは知っておりやす。何も、恐れる必要はありやせん」

鶴巳の言葉が野江の背を押す。紅城には、野江が鶴巳と親しいことに疑問を抱く者が多い。陽緋の野江と、小汚い鶴巳。野江が術士になる前からの付き合いと知る者も少ない。しかし、野江は支えられているのだ。鶴巳という存在に守られているのだ。この広い紅城の中で、野江を孤独にしないのは、いつも一緒にいてくれる鶴巳という存在があってのことだ。

 野江は「ありがとう」という言葉を言いかけて、飲み込んだ。野江は歴代最強の陽緋。強くなくてはならない。ここで強がりが出来ず、どこで演じることが出来るのだ。名女優は紅だけでないのだ。

「鶴巳、行くわよ」

野江が言うと、鶴巳は笑った。

「分かりやした」

野江が足を進めると、鶴巳が後ろを歩く。これが、紅城の名物にであることを野江は知っていた。


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