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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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雨の中の白(11)

 ソルトは一人、孤独の雪原にいる。目の前に見える氷の城は冷たく、誰もが逃げていく。恐ろしく冷たい世界にソルトはいるのだ。凍えながら見上げる空は澄んでいて、冷たいからこそ透き通っている。透き通った空を見上げながら、ソルトは息を手に吐きかける。はらはらと舞い落ちる雪。ソルトは一人だ。

(ソルト)

雪原でアグノの声が響く。ソルトの近くに唯一いてくれる存在。ソルトは雪に上にしゃがみこみ、辺りを見渡した。アグノの姿は見えない。次第にソルトの視界は霞み、白くなっていく。

 ソルトは一人だ。すると、遠く離れたところに赤い光が見えた。遠い場所で赤い光が輝き、遠くソルトは赤に向かって手を伸ばした。赤があまりに満ち足りていて、赤があまりに賑やかだから、孤独なソルトは辛いのだ。

(ソルト)

アグノの声が再び響いた。なのに、アグノはここにいない。ソルトの胸に生じるのは、アグノが消えてしまう不安。もし、アグノがいなくなってしまったら、ソルトはどうなってしまうのか。氷の人形のソルトは、自由に走ることも出来ず、ただ雪の国の城の中に閉じ込められるのだ。

(大丈夫だ、ソルト)

アグノの温かな声が再び聞こえた。

(ソルト)

冷たいソルトの世界に温もりが響いたかと思うと、ソルトは現実の世界に引き戻された。そこには、ソルトを心配そうに覗き込むアグノの姿があった。そしてアグノは強くソルトを抱きしめた。

「大丈夫です、ソルト」

アグノの声は温かい。大きな手も温かい。胸の鼓動が強い。ソルトはアグノだけなのだ。離れたところで、冬彦も立ち尽くしている。ソルトの目がぼんやりと冬彦の輪郭を象って見せた。

「ソルト、少し考えすぎですよ」

アグノがソルトの頭を撫でた。

「あなたは、ソルトです。あなたは、ソルトです。他の誰でもないのです」

アグノの腕は強い。温かく、強い。強い。強い。


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