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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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雨の中の白(10)

 冬彦は動じもせず、まっすぐにソルトに話した。それが、嬉しかったのかもしれない。同時に、見たことのない赤の色神を思った。赤を手にした色神は、一体、どのような人なのか。冬彦のような術士を近くにおいて、どれほど恵まれているのか。羨ましさが憎しみに変わりそうであった。冷たく閉ざした雪の国を思い、胸が痛んだ。

「赤の色神は、冬彦が姿を消したことに動転するでしょうね」

追い詰められたソルトの心は、冬彦に氷を向けた。しかし、冬彦は苦笑するだけだ。鋭い一色を持つ冬彦らしくない。落ち着いて、静かな苦笑だ。

「驚くだろうけれど、動転までは行かないだろうな。俺は最近紅の仲間になった身。つい、一ヶ月前に、紅を殺すために紅城に忍び込んだんだから」

ソルトは、冬彦の言葉の理解に苦しんだ。なぜ、赤の色神を殺そうとした者が、赤の色神の仲間なのか。それが理解できない。もし、ソルトならば、己に剣を向けた者は殺している。向けるものなどいないのが、雪の国の大前提であるが。

「赤の色神を殺そうとしたの?そんな人が、許されるはずないじゃない」

ソルトは声を荒げた。近くに控えていたアグノがそっとソルトの肩に手をかけ、頭を撫でてくれた。アグノの大きな手は、ソルトを安心させた。冬彦の言動が、赤の色神の人柄を表していて、赤の色神の強さを見せ付けられたような気がしたのだ。赤の色神はソルトより優れている。だから、信頼できる仲間が多い。現実を突きつけられて、ソルトは混乱しているのだ。

「ソルト、落ち着いてください」

アグノがゆっくりと口にした。アグノは温かい。温もりがソルトを落ち着かせる。そして、アグノは言った。

「赤の色神は、己を殺そうとした者を救ったと?」

アグノの問いに冬彦は答えた。

「そうだ。――紅にとって不利になる話じゃないから、ちょっとぐらい良いだろ。俺は、紅を心から尊敬している。紅に従う術士になり、紅のために命を捨てる覚悟だ。俺は、兄弟と一緒に紅を殺そうとした。もちろん、紅に勝つことは出来ない。紅の周りには、俺たちよりずっと優れた術士がいて、俺たちは何も出来なかった。むしろ、紅に救われて、立場を与えられて、今に至る。だから、俺は紅の術士だ。紅のために戦うことに迷いはない」

冬彦のまっすぐな色が、ソルトを包み込んだ。あまり目が見えなくても、冬彦のことは分かる。ソルトは、遥か遠方から、彼に会いに来たのだ。

「赤の色神ねえ」

ソルトは呟いた。赤の色神のことはあまりしらない。しかし、赤の色神の人柄は想像できた。それが、やたらと悔しかった。

「俺は紅を守る。赤の術士だ」

冬彦の真っ直ぐな言葉がソルトを更に追い詰めた。


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