雨の中の白(9)
遠い雪の国から感じた白を引き出す力。その力を持つ者がどのような人物なのか、興味があった。そこで、白の本質が分かるような気がしたのだ。ソルトがあまり好きでない白。その白の力を完全に引き出す術士の性格がいけ好かなければ、ソルトは心から白を嫌うことが出来ると思ったのだ。なのに、白を持つ冬彦は、ソルトとアグノを助けてくれた。目の前に差し出された高額な白の石を、冬彦は躊躇いもなくアグノのために使った。盗むことも出来ただろうに、冬彦は盗まなかった。冬彦の一色通り、彼はまっすぐで、正直だ。
「ありがとう」
ソルトは思わず冬彦に言った。それは、何を意味しているのか、ソルトには分からなかった。冬彦が悪い人でないことへの感謝なのか、彼がアグノを助けてくれたことへの感謝なのか、分からない。けれども、ソルトの心の感謝の念が生じたのは事実なのだ。
「あんた、白の色神なら自分で助けることが出来ただろ。礼を言われる筋合いはねえよ」
冬彦は、刺々しい口調で言った。ソルトにそのように強気に出る者はあまりいない。命を扱う力を持つソルトに刃向かう愚か者がいるはずもない。ソルトは知っていた。雪の国の民は、ソルトのことを神だと思っている。色神は神だが、赤の色神と白の色神は違う。命を扱う白の色神は、崇拝の対象なのだ。火の国のように反乱など生じるはずもない。ソルトを直接知る者は、影でこう言う。
――氷の人形
それは、度重なる実験によって変異してしまったソルトの異質な容姿を指し、幼いながらソルトにのし上がった皮肉であり、雪の国の産業を支えていた医学院を廃止したことへの非難であった。