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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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雨の中の白(8)

 アグノに抱きかかえられて、人ごみから抜け出るようにソルトは森に向かった。白を持つ少年は、白煙の上がる方向を見ながら目を細めていた。それでも、ソルトから離れることをしなかった。いつもの場所へ着くと、ソルトは苔生す岩の上に座った。火の国の世界は、色で満ちている。最も濃厚なのは赤であるが、自然の緑があり、木々の茶があり、水や空の青、大地の黄、白だけで覆われた雪の国の冬とは違う。ただ、火の国には、白が少なかった。

 ソルトは白の事が好きでない。あの性格も言葉遣いも、仕草も、全てが嫌いだった。白が止めなかったから、医学院は暴走したのだ。白なら出来たはずなのだ。白がソルトに苦言を呈し、暴走するソルトを白が排除すれば良かったのだ。なのに、白はそれをしなかった。雪の国の強さを維持するために、白はソルトの暴走を見ていたのだ。

 ソルトは白のことが好きでない。しかし、火の国に白が少ないことがソルトの心を締め付けた。まるで、赤は白のことを嫌っているようであった。火の国には色が多い。それは、赤が他色を受け入れているからのように思える。その中で、白が少ないということは、白が赤に嫌われているということだ。


「何をするつもりだ?」

白を持つ少年が警戒しながらソルトに尋ねた。ソルトの目には、少年の顔があまり見えない。けれども、彼が持つ一色はよく見えた。雪の国でも見たことがないほどの鋭い白だ。ソルトは、白を持つ少年の一色を見ながら、ゆっくりと口を開いた。

「あなた、名前は?」

ソルトが言うと、少年は俯き、そして一つ息を吐いて答えた。

「冬彦だ」

少年は答え、ソルトは思わず笑みをこぼした。


――冬彦


その名前をソルトは心の中で反芻した。

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