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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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雨の中の白(6)

 アグノが救われたのは、白を持つ少年が邪心を持たなかったからだ。もちろん、白を持つ少年が逃げれば、ソルトは他の白の石でアグノを救った。しかし、ソルトの心はアグノを殺したことになる。ソルトは白を持つ少年を信じていたのだから。

 遠くでは黒の力が膨れ上がっていた。膨れ上がった黒の力を抑えようと、二つの赤が戦っていた。もしかすると、黒の色神クロウは無色を見つけたのかもしれない。無色を狙う黒と、無色を守る赤の戦い。そのような戦いでアグノが傷つくのはごめんだ。黒に白が追い込まれて、どうするというのだ。

「あっちか」

白を持つ少年は、赤と黒の衝突の方向を見つめていた。彼は赤の術士だ。赤の色神に仕える存在。赤の色神を守りに行くのが当然の流れだ。ソルトの正体を知らない彼にとって、今、目の前にいる異人はさほどの価値はない。

「誰が戦っているってんだ?――ああ、もう。俺はこういうのが苦手なんだよな」

白を持つ少年は悪態をついていた。そして、頭をぐしゃぐしゃに掻いた後、アグノに言った。

「あんた、動けるか?逃げる場所はあるのか?」

白を持つ少年は、アグノに尋ねていた。大人のアグノに対して、恐れを知らない堂々とした対応だった。術士だからなのか、白を持つ少年の本質なのか、ソルトには分からない。白を持つ少年は困惑していた。

「この場合、俺はどうするべきだ?助けに行くべきか?それとも、白の石を持つ異人を守るべきか?」

白を持つ少年は戸惑っていたが、ハッとしたように手を叩いた。

「そうだ、紫の石があった」

白を持つ少年は、色神紅の下で働く赤の術士だ。例え、白を持ち、白を引き出す力を持っていても、火の国の民である以上、彼は赤の術士なのだ。困ったときは、赤の色神の指示を仰ぐ。

「アグノ」

ソルトはアグノの名を呼んだ。命じなくても、アグノならば分かってくれる。ソルトが火の国に来た理由もアグノは知っている。そして、目の前の白を持つ少年が、アグノ自身を救ったことも知っている。ソルトは白を持つ少年から離れたくなかった。

 少年は紫の石を取り出した。その手首を、素早い動きで掴んだのはアグノだ。

「命を助けてくれたことには礼を言います。ですから、一緒に来ていただけますか?――逃げようとしない方が良いですよ」

アグノはゆっくりとした口調で、語りかけた。しかし、白を持つ少年は動じない。

「何で、あんたらに従わなくちゃならないってんだ。何のために俺の力があるんだ?俺は、紅のために戦わなくちゃいけない」

まるで、大きな恩義があるかのように、白を持つ少年は言っていた。彼は紅のために戦う。紅に仕える術士なのだから。だが、白を持つ少年は逃げることは出来ない。誰であっても、白の色神に逆らうことは出来ないのだ。白の石は、命を選択する石だ。命以上に重いものはない。だから、白を持つ少年はソルトに逆らうことは出来ないのだ。


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