表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
346/785

雨の中の白(3)

 アグノはソルトを庇った。倒れながらも、ソルトを庇い力強くその腕で抱きしめてくれた。叩きつけられても衝撃が少ないのは、アグノが抱きしめてくれたからだ。アグノの腕の中で、土を近くに感じながら、ソルトは逃げる人々の足を見ていた。アグノを踏みつける人もいる。ソルトの手に生温かいものが触れた。見ると、馬車と接触したアグノの背から赤い血が流れ出している。


「アグノ」


ソルトはアグノを呼んだ。しかし、アグノから返事はない。白の石を使わなくてはならない。ソルトはそう思った。ソルトは白の色神だ。命を選ぶことが出来る色神だ。火の国に足を運んでからも、ソルトは毎日白の石を生み出し続けている。アグノを救うことが出来る。

 ソルトは手を伸ばした。白の石に触れて、アグノを救うために。しかし、人の流れの勢いが強く、手が届かない。アグノはソルトをいつも助けてくれている。守ってくれている。ソルトは命を選ぶ力を持つ白の色神。白の色神であるソルトが、アグノを死なせることは出来ない。アグノがいなければ、体の弱いソルトは自由に動くことが出来ないのだから。

 人が走り、埃が舞う。ソルトの口に砂埃が入る。その中、ソルトは声を聞いた。


「大丈夫か?しっかりしろ」


声は若い声。容姿はよく見えない。


「くそ!」


声は悪態をつき、ソルトの前にしゃがんだ。人の流れは遠慮なくアグノと声の主の横を通り抜ける。

「許してくれよ、紅。勝手に出たことも、勝手に石を使ったことも」

若い声はそう言った。間違いなく、それは赤の術士の声なのだ。赤の術士のはずなのに、辺りを覆ったのは黄だった。黄の力で道の土は盛り上がり、倒れるアグノとソルト、そして赤の術士を覆う鎌倉となった。人の混乱が落ち着くまで、さほどの時間はかからなかった。


 アグノの腕の中、ソルトの意識はぼんやりとしていた。アグノが死ぬのではないかという大きな不安があったのだ。さすがの白の色神といえど、死者を蘇らせることは出来ない。

(アグノ……)

ソルトは心でアグノの名を呼んだ。しかし、声が出なかった。悲しく、痛く、辛かった。

「大丈夫か?しっかりしろよ」

声が響いた。よく見えない目で、ソルトはその声の主を見上げた。その時、溢れかえる白を感じた。活気があって、勢いのある白。ここは火の国。赤の色が濃い。なのに、ソルトは白を見たのだ。

 なぜ……

遠い異国の地で、ソルトは白を持つ者を見た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ