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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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雨の中の白(2)

 ソルトは火の国の町が好きだった。人の笑い声が満ちて、活気に溢れる。雪の国は美しい国だ。冬になれば、一面白い景色に覆われ、汗と縁遠い。澄んだ空気、冷えた空気。けれども、寒さは人を内へと押し込む。人は家族の中に入り、外との接触を好まない。一つの白の石を巡り、争いが起きる。ソルトに助けを求める病院が、城の前に集落を作る。ソルトは、城に篭り、彼らを助けることも出来ない。

火の国は違う。この町の民、全員でひとつの家族のように思えた。それが、和なのだと、ソルトは感じた。この国のことは嫌いでない。熱いが活気がある。小さな国であるが、民を巻き込むような争いは感じられない。もちろん、色神ら役職のある者はそれなりの争いを強いられているだろうが、それを民に感じさせないのであれば、赤の色神の力は証明される。赤の色神は、火の国をきちんと統べている。民が悲壮な雰囲気を持っていないのが、その証拠だ。

「戻りましょう」

アグノは番犬のように鋭い目つきでソルトを抱きかかえたまま、ソルトの耳元で囁いた。アグノは警戒をしているのだ。ソルトの命に危険が及ばないように、必死に動いてくれている。アグノは体が大きい。大きいから、目だってしまう。必然的に、ソルトも目立つ。ソルトを守るために、アグノは森の中に潜むことを選んでいるのだ。

「もうちょっとだけ」

ソルトはアグノに言った。せっかく、世界の果てにあるような遠国まで足を運んだのだ。鎖国をしているこの国の内情を知る者は少ない。この火の国の中にいることは、貴重な時間。そして、ソルトが城から外に出る貴重な時間。アグノは何も言わなかった。

 ソルトは火の国の町を見渡した。饅頭を口に入れた。ソルトは味があまり分からない。けれども、その温もりは分かった。蒸した酒饅頭の温かさと柔らかさは分かった。温かい人の手によって作られたものだと感じられた。どれほど豪華に並べられたお菓子よりも、ソルトを満足させた。これが、美味しいというものなのかと、ソルトは思ったほどだ。アグノにねだって、出店に並べられた安物の髪飾りを買ってもらった。とても楽しい時間だった。

「戻りましょう」

ひとしきり時間が経ったころ、再びアグノがソルトに言った。森に帰る時間になったのだ。駄々をこねれば、もっと町で遊べただろう。しかし、ソルトはそれいじょう駄々をこねなかった。いつまでも、子供ではいけない。

「そうね」

ソルトは答えた。町になら、また明日くれば良い。森の中、大木の下でアグノの横で眠った後、来ればよいのだ。

「アグノ、戻りましょう」

答えた直後、ソルトは大きな色の乱れを感じた。黒が行動を始めたのだ。濃厚な黒が巡っている。爆音が轟き、悲鳴が響く。町民たちが悲鳴を上げながら逃げ始める。

 アグノも反応し、身を翻した。悲鳴、逃げる人々、暴れる馬、その中でソルトは周囲を見渡した。爆音に驚いた商人が、荷馬車を走らせ、勢いよく人ごみの中を駆け抜ける荷馬車はアグノに接触した。ソルトを守るために身を回したアグノの背を荷馬車はかすめ、アグノの大きな体は弾き飛ばされた。人ごみの中、倒れる人が多い。ドミノ倒しのように倒れる人、泣き叫ぶ子供、平和だった町が一瞬で地獄に変わったように思えた。


(クロウ)


ソルトは心の中で悪態をついた。黒の色神、クロウが動き始めたのだ。クロウが火の国に足を運んだ理由は分からない。色の命じるがまま、無色を探しに来たのかもしれない。


(止めて)


ソルトは願った。この平和な火の国の中で悲鳴を聞きたくない。アグノを傷つけるようなことはしたくない。クロウが火の国を掻き回している。火の国を滅ぼし、破壊に駆られる。この時、ソルトは白と黒が対照的な色であることを理解した。黒は破壊しかしない。白は争いを生むが命を救う。ソルトはこの地獄から逃れる方法を探した。


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