黒の助言(3)
何ともいえない気持ちのクロウを前にして、紅は柔らかく微笑んだ。彼女は様々な表情を持つ女性だ。時に強く、時に美しく、時に儚い。黒の色神であるクロウが、赤の色神である紅に心を奪われるなんて、あってはならない。
「先々代の紅は人を信じられない人だった。赤影を片っ端から殺したのは、先々代の罪だ。先代は優れた人だったが、仲間に恵まれない人だった。私は、先代が残してくれた仲間を持つ。先代に支えられ、先代に守られている。――時々、考えるんだ。もし、野江や都南、佐久がいなければ。もし、義藤や赤丸がいなければ。もし、遠次がいなければ。柴や鶴蔵がいなければ、と。行き着く答えは同じだ。彼らがいなければ、私は紅として生きることなんて出来ない。私は、先代のような力を持たないから、彼らがいなければ生きることは出来ない。だから、分からないんだ。どうすれば良いのか。だから、一人で戦ってきたクロウの話を聞きに来たんだ」
紅の言わんとすることがクロウには想像できた。
「誰が消えた?」
紅は仲間と共に歩んできた。それが紅の強さであり、弱さである。紅は他者を支えに生きている。重圧に耐えている。その仲間が欠けたら、万に一つでも裏切り者が出れば、紅を支える基礎は崩れ落ちる。誰が消えたのか、想像することは出来る。
「佐久か?」
クロウは言った。監視を止めてから、クロウは佐久の姿を一度も見ていない。
「佐久と、冬彦だ」
紅は俯きながら言った。冬彦が何者なのか、クロウは知らない。だが、この状況で消えたということは、何かしらの力を持っているのかもしれない。それに、下村登一の乱の時、異形の者を通じて見たことがある。
「冬彦とは?」
クロウが尋ねると、紅は答えた。
「白の石と相性が良いんだ。おかげで、下村登一の乱の時、秋幸は代償を支払わずに命を繋ぐことが出来た」
紅の返答にクロウは確信した。白の色神が関わっているに違いない。白の色神が無償で柴を救うとは思えない。
「冬彦を探せ」
クロウはそう言った。