黒の助言(1)
クロウは紅城の中に座っていた。ここは、客間なのか、閑散とした部屋であった。ただ、赤が満ちていることは分かる。紅城に満ちる赤が、火の国の未来が安泰であることを示しているようであった。
クロウは火の国の内部を掻き回した。紅はクロウのことを責めていないし、赤の術士もクロウを責めていない。結果として、赤の術士に死者がでなかったことが救いかもしれない。
ドカドカという大きな足音は、柴のもの。大きさを持つ柴は行動全てが大きい。一度は、クロウも柴の死を覚悟した。しかし、白の色神の気まぐれで救われたのだ。加工という火の国独自の技術に長けた存在。
「ちょっと、柴。待ちなさいよ」
甲高く響くのは野江の声。火の国一の術士だ。口が悪いのが難点だが、彼女の力は本物だ。
「野江、そう怒るな。あの時、ちゃんと遺言は残しただろ」
困惑した柴の声も聞こえる。野江は、柴が死にそうであるのに、彼を残していたことに己を責めているのだ。火の国の術士は感情豊かだ。
「すんません、すんません」
聞きなれない声は、からくり師鶴蔵のものだとクロウは覚えていた。からくりというのも、火の国独自の技術だ。どうやら、柴に食って掛かる野江を必死に止めているようであった。
しばらくすると、甲高く響く声が聞こえた。鞠のような声は、可那のものだ。
「だから、その態度改めなさいよ!」
「だから、俺に付きまとうな。忙しいんだ!」
反論するのは都南の声。どうやら、可那と都南は折り合いが悪いらしい。想像するに容易い。忙しく動き回る可那と、獣のような都南。折り合いが良いはずがない。どちらも、我が強すぎる。時に都南は人の意見をじっと聞き入れるようで、己の中の芯を曲げたしない。それを曲げさせるには、よほどの説得力が必要なはずだ。
紅城は賑やかだ。