藤色の兄弟(5)
差し出された細い手を掴むと、義藤は立ち上がった。
「赤山が怒るかもしれないが、生き残った四人の赤影については知られてしまったんだ。もう、隠す必要もないだろう」
そして、義藤は紅に手を引かれて先へ進んだ。手を引かれて進むと、義藤の心は十三年前に遡った。紅は紅となる前、違う名であったころ、義藤はこうやって走っていた。山育ちの野暮な義藤を紅は、こうやって連れまわしていたのだ。
義藤は紅に手を引かれるがまま紅だけが使う裏道に入った。紅が持つ紅の石に反応して開く道だ。その時、義藤は知ったのだ。紅城の壁と壁の間には、人一人が通ることがで出来る隙間がある。外にいると気づかないほど、精巧に作られている。この道を通り、紅は行動しているのだ。
「この道は、私の道だ。そして、この道は赤影の道に通じている」
狭い壁の間を抜けると、小さな部屋があった。天井と床の間にある部屋だ。身体をかがめなくてはならない部屋。
「かつて、赤影の大半は山で暮らしていた。そして、交代で紅の守役として働く。それ以外の間は、お前たちと同じだ。鍛錬に励み、子供を育てる。今は人数が少ないから、彼らは常に紅城にいるがな」
その窓はなく、蝋燭の火が明かりだった。それは、外からこの部屋の存在が知られないようにするための工夫だ。その部屋の中に横たわっているのは、義藤と同じ顔だった。その横に、赤山と義藤の知らない女性がいる。犬も伏せている。苦笑しているのは、赤山だった。片腕の、顔に深い傷を負った赤山だ。
「まさか、ここまで連れてくるとは思っていなかったな」
赤山は言いながらも紅に頭を下げた。それは、女性の赤影も同じだ。
「菊、赤丸はどうだ?」
紅が尋ねると、女性の赤影が答えた。
「おそらく、問題ないと思います。深い眠りの中にいますが……」
言うと、紅は躊躇いもなく赤丸の横に座ると、赤丸の手を取った。その手の平には、幾重にも包帯が巻かれている。
「私を救ってくれて、ありがとうな。手に二つ目の傷跡が出来てしまったな」
まるで、人形のように横たわる赤丸に紅が語りかけた。その言葉は慈しみ深く、優しい。すると、紅の言葉に反応するかのように、赤丸が目を開いた。もともと色白の赤丸の顔色は、透き通るように白い。彼の体調が悪い証拠だ。硬く閉じられていた睫が開くと、その目は紅を見つめ、そして義藤を見た。
「紅、迷惑かけたな」
赤丸は白い唇でその言葉を口にした。すると、紅は握っていた赤丸の手を叩いた。
「迷惑をかけたのは、私の方だ。お前たち皆を、表の世界に引きずり出してしまったな。特に、赤菊は辛かっただろ」
紅は三人と一匹の赤影を見渡した。
「これから、更なる混乱に陥る。もう一度、私のために戦ってくれるか?」
紅が赤影に頭を下げた。紅にとって、表の赤の術士も、裏の赤影も仲間であることに変わりないのだ。
「命尽きるまで、赤影として、紅に仕えましょう」
赤山が深く頭を下げた。