藤色の兄弟(4)
「そして、佐久も消えた」
義藤の心臓が強く脈打った。
――佐久
彼は紅を支える重臣。同時に、何度も義藤も救われた。
「なぜ、佐久が……」
思わず、義藤は言った。佐久は二年前の戦いで深手を負い、日常生活に支障を及ぼすほど体の自由が利かない。頼れる重臣の佐久が消えたことは、鉄壁であった赤の術士に亀裂が生じたということだ。
「二人が消えたことは、誰も知らない。野江も都南も知らない。佐久は所要で冬彦と一緒に外部へ派遣したと言っている。冬彦が一緒だったら、佐久が外部に出ても不思議でないだろう。だが、佐久が消えたということは事実だ。いずれ知られる。白の色神と流の国の術士がこの火の国に進入している中で、二人が消えたことは事実なのだから」
義藤の背にじっとりと汗が流れた。これは、暑さによるものではない。
火の国の、今の紅の強さは優れた術士が周囲にいることによるものだ。その中で、術士が消えたということ、それが意味するのは火の国の危機だ。
「でも、心配しても何にもならないな。私は、佐久を信じなくちゃいけない。心配なのは
佐久と冬彦が外部に誘拐されるということだが、二人に限ってそれはないだろう。二人とも、優れた術士なのだから。ならば、彼らは彼らの意思で行動している。彼らが火の国を裏切るはずがないだろう。今は、この混乱を静めることに集中しなくてはならないのだからな」
まるで、紅は己に言い聞かせるように言った。最も不安を覚えているのは紅自身だ。だから、義藤は信じなくてはならない。紅を信じて、いつでも、何があっても、紅の隣にいると信じなくてはならないのだ。
「俺は近くにいる」
義藤は思わず言った。紅の近くにいる。それが、義藤が術士になるためのきっかけなのだから。
「ありがとう」
紅が赤く花開いたように笑った。その笑顔の横にいたいと、義藤は常々思うのだ。
「赤丸は?」
義藤は紅に尋ねた。本当は、忠藤と呼びたかった。赤丸なんて呼ぶと、他人行儀で落ち着かない。「忠義」の名で義藤と忠藤は繋がっていた。なのに今、義藤と忠藤を繋ぐものは何もない。あの時は、あんなに近くにいたのに、やっと会えたのに、忠藤は義藤から逃げてしまうのだ。
「義藤、動けるか?ちょっと来ないか?」
紅は笑い、そっと義藤に手を差し出した。