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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤の傷(1)

赤の仲間たちは二年前のことを強く意識し、今日これから生じるであろう戦いを二年前と重ねていた。赤の仲間たちは二年前のことを強く引きずっている。赤の仲間たちはとても優れた術士たちであるから、彼らを感情を掻き乱す出来事はどのようなことなのか、悠真には興味があった。悠真は赤の仲間たちとの距離が着実に縮まっていると信じており、残された距離をさらに縮めるには二年前の出来事を知るしかないと思ったのだ。

「ねえ」

悠真が声を出すと、赤の仲間たちが悠真に目を向けた。

「ねえ、二年前って……」

悠真が口にすると、その場の空気が豹変した。野江が睨むように悠真に目を向け、佐久が一つ咳払いをした。感情を隠そうとしない都南は、あからさまに不快感を示し、鶴蔵は怯えたように身体を縮めた。遠次までもが、苛立ちを露にしていた。

「それは、あなたが口にすることじゃないわ」

今まで悠真に対し友好的だった野江が、初めて冷たい言葉を投げかけた。もちろん、悠真は術士でないし、紅から赤を許された赤の仲間でもない。それでも、惣次を架け橋として赤の仲間に近づけたつもりだった。あからさまに拒絶されたことは、悠真にとってとても辛いことだった。いつも悠真の味方でいてくれた野江が悠真を否定し、悠真は野江から仲間でないと言われたように感じた。

「ご、ごめんなさい」

悠真は謝るしか出来なかった。同時に、心に冷たい風が吹き込んだ。赤の仲間たちが持つ赤色がとても遠く感じ、悠真は自分自身を見た。悠真は赤を持っていない。十歳の選別で術士の才覚を見出されることなく、十六になる今日まで故郷で平凡に暮らしていた。術士でない。赤の仲間たちは十歳の選別で術士の才覚を見出され、それから長い年月紅城で紅を守り支えるため生きてきた。下緋ならば地方に派遣され「術士様」として崇められることもあるだろうが、中央の紅城で生きる赤の仲間は違う。紅の命を狙う者と戦い、官府との政治的工作に加わり、知恵を絞り、強さを求め、時に命を賭して紅を守る。紅は紅城の一室で生きる「籠の中の鳥」と己を称していたが、赤の仲間たちも似たような存在だ。赤の仲間からすれば悠真は異質な存在。悠真と赤の仲間に何の共通点があるというのだろうか。どうして、悠真は彼らと仲間になれると思ったのだろうか。仲間になりたいと思うことさえ間違っているのに、なぜ彼らと仲間になれると思い込んでしまったのだろうか。紅が惣次の石を悠真に手渡してくれたから、赤の仲間が悠真が惣次の紅の石を持つことを認めてくれたから、紅の本当の姿を垣間見たから、優れた存在である赤の仲間たちが苛立ち言い争う場所に悠真はいたから、それは赤の仲間たちが優しいから、赤の仲間たちが輝いているから。赤の仲間たちが互いを思っているから、故郷を失い孤独な存在となった悠真は彼らの一員になりたいと願ったのだ。強い一体感を持つ彼らの一員になるには二年前を知るしかないと思ったのだ。田舎者の小猿ば、紅城で紅を支え守る赤の仲間になれるという思い自体が間違っているというのに。

「ごめんなさい」

赤の仲間たちは悠真を責めない。二年前のことを知られたくないという思い以外は、悠真を否定するつもりは無いらしい。都南と義藤の手合わせの場にも同席させてくれた。紅の涙を隠そうともしなかった。なのに受け入れられなかったことが、悠真をとても孤独にさせた。

「いいのよ、悠真」

野江の声は優しかったが、悠真の孤独は消えなかった。一体感を覚え始めていたからこその、孤独だった。赤の仲間たちは平然としているが、悠真の心中は複雑だった。このまま消えてしまいたい。彼らの前にいたくない。そう思うほどの衝撃だった。

「俺、厠に」

いたたまれない気持ちになって、悠真は席を立った。悠真と目が合った鶴蔵は、怯えるように肩をすくめた。

「厠なら出て左の突き当たりだよ」

佐久が身振り手振りを交えて教えてくれた方向に、悠真は逃げるように外に飛び出した。

 術士に良いことは無い。特に紅を守る赤の仲間たちは命を賭して紅を守り、支えている。それは紅を慈しみ、紅を愛しているから。悠真に赤の仲間と同じ気持ちはあるだろうか。紅の命を狙う敵から彼女を守るために命を捨てることが出来るだろうか。その覚悟が出来て、それを実行できない限り悠真は赤の仲間に近づくことが出来ない。二年前の出来事を隠されたことがそれを証明し、悠真は赤の仲間の傷を知ることが出来ないのだ。

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