藤色の兄弟(3)
紅が背負う多くの重圧を、軽くするなんてことは出来ない。それでも、義藤が紅にかけることが出来る言葉は、これしかなかったのだ。紅がはっと顔を上げ、目を見開いた。紅の目に義藤の姿が写り、義藤は吸い込まれそうな気分になった。そんな紅は、再び俯き、口を開いた。
「仲間が二人消えた。連れ去られたのか、意図的に消えたのか」
義藤は意味が分からず、目を細めた。紅は言った。
「私が仲間に気にかけることが出来なかったから、二人も消えてしまったんだ」
俯く紅の肩が寒そうで、義藤は思わず紅の肩に手を乗せた。乗せた手が触れた紅の肩が想像以上に細くて、義藤はいたたまれない気持ちになった。どれだけの重圧を背負っているというのかと思い、義藤が紅に対して何が出来るのかという思いが先走るのだ。触れた手が紅の肩の振るえを感じ、義藤は再び言った。
「大丈夫だ」
言うと、紅がゆっくりと口を開いた。
「今は未だ、皆混乱している。適当な嘘をついて誤魔化したが、二人が消えたことにいずれ気づくだろう」
誰が、消えたのか。義藤はそれが気になったが、尋ねることが出来なかった。紅が己の口から離そうと思うまで、義藤が無理強いして尋ねることは出来ない。紅には紅の考えが会って、口を閉ざす必要があると思えば、口を閉ざすべきなのだから。
「消えたんだ。義藤」
紅は震える声で言った。そして、その名を紅は言った。
「冬彦が消えた」
義藤の中で、紅の言葉が繰り返し響き、義藤は紅の肩に乗せた手を下ろした。
――冬彦
それは、義藤が育った山で育った者だ。先代の赤丸、義藤の母が術士の才覚を見出し連れてきた子供。その術の才能を義藤は知っている。石の力を引き出す才能、火の国では異質とも思えるほどの白との相性の良さ。将来有望な術士だ。多少無茶をする性格であっても、それは幼さによるもの。
なぜ、冬彦が消えたのか。義藤には分からない。しかし、同時にもう一人消えたのだ。もう一人は一体。義藤が思っていると、紅が口を開いた。