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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
328/785

藤色の兄弟(2)


 少しずつ蒸し暑さが生じる梅雨明けの空。夏が近づき、身体は汗ばむ。今、何をしていたのか、まどろみの中に義藤はいた。身体が重く、痛んだ。

 思い出すのは、暴れ狂う異形の者。そして、暴走する紅。義藤は無力で、己の無力さを痛感させられる。


――忠藤。


痛む身体を起こすと、そこには誰もいなかった。

「目が、覚めたか?」

一つ、声が響きそこには紅がいた。顔からは疲労が見て取れるが、紅はすこぶる元気そうであった。

「紅、俺は一体……」

記憶をたどれば、今の状況が理解できる。義藤は忠藤を救うために、忠藤の色を受け入れた。そして、今に至る。

「お前が無事でよかった」

紅が赤い色を零すように笑った。その色に、義藤は胸をつかまれたような気がした。義藤は身体を起こすと、布団から降りて紅の前に正座した。もちろん、敷かれていた布団はしっかりと整えた。すると、紅はけらけらと笑ったのだ。

「お前は、相変わらずだな」

その笑いが義藤に力を与えた。

「どうなった?」

義藤は紅に尋ねた。義藤の記憶はすっぽりと抜け落ちているのだ。黒の色神の存在、傷ついた赤丸、そして白の色神に命を救われた柴。義藤の知らないところで何かが起こり、義藤の知らないところで、解決したのだ。紅のいたたまれないような疲労した表情で、尋ねずとも分かる。それでも、尋ねたくなるのは、義藤の脳裏に傷ついた赤丸の姿が浮かんでは消えるからかもしれない。結局、紅を救ったのは義藤でなく赤丸なのだから。

「万事問題ないさ。黒の色神は紅城に客人として招いた。もちろん、黒の色神であることを隠してな。他の黒の色神は知らないが、彼は紅城の内部事情や私たちのことを外部へ伝え、火の国を陥れたりしないだろう。もちろん、遠爺は不機嫌になったがな」

そこまでいうと、紅は座りなおした。もちろん、片膝を立てた、いつもの座り方であることに変わりないが。

「野江らが官府の片づけをしている。源三と可那もとりあえず、紅城へ招いた。柴らは迎えに行った。柴は白の石で元気になり、もちろん薬師と赤菊も無事だ」

白の色神という言葉が、義藤の心に何度も響いた。白の色神も火の国に来ているのだ。一体、何を思って白の色神は紅城に来たというのか、義藤は分からない。黒の色神の時のような混乱が生じるのは間違いないはずなのだ。

「白の色神は?」

義藤が尋ねると、紅は首を横に振った。

「火の国に隠れているのは間違いないだろうな。だが、どこにいるのかは分からない。柴は赤菊に問うたところで、突如表れ、消えたらしいからな。一体、何を思い、白の色神は私たちに力を貸したのか、理解に苦しむばかりだ」

紅はしばらく、押し黙り、ゆっくりと口を開いた。

「あの時、私も混乱していた。自らの力に喰われるという経験をし、私は周囲の配慮を怠った。きっと、混乱は続く」

紅の目が俯いた。長い睫がしばたき、透き通った肌と赤い唇に影がともる。紅が大きな苦しみを抱えている。それは、義藤が一緒に抱えることが出来ない苦しみだ。紅は色神で、義藤は紅に仕える術士だから、紅の荷物や苦しみを一緒に背負おうと思う時点でおこがましい。それでも、義藤は紅の近くにいることを選んだのだ。己の起源を知り、色神に近づくことも術士になることも、父と母が望んでいなかったと知りつつも、術士になる道を選んだのだ。

「大丈夫だ」

義藤は一つ言った。他に言葉が浮かばなかったのだ。

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