無色を守る赤(1)
その姿は、悠真が何度も見た、本当の紅の姿だ。男勝りで力強い。他者を圧倒する存在感を持つ。これが、火の国に生きる色神紅だと痛感させられる。どんなに紅が疲弊していようとも、彼女が持つ鮮烈な赤は嗅げることを知らない。紅はゆっくりと語り始めた。
「悠真には無色がついているな。初めて会った時から気づいていた。あの時、悠真が惣次の石を使った時に赤が騒いだからな。当初、赤は無色に関わるなと言った。そもそも、私は厄色を持った赤丸を抱えている。無色がすぐに赤に染まるなら未だしも、他の色から狙われるぐらいなら、無視しろと。悠真、赤は当初しつこく言わなかったか?赤に染まれと。それでも、悠真が染まらないから、次に赤は悠真を手放せと言った。私は悠真を染めることも手放すこともしなかった。だって、悠真は悠真であり、誰に利用されるべきでもない。そして悠真は、下村登一の乱の時に力を貸してくれた。あの時、悠真がいなければ、私は最悪の方法で事態を収拾せざるを得なかった。悠真がいたから、助かったんだ。赤は、あんな風に見えるが、それほど悪い奴ではないんだ。詳しい話は色の世界のことだから知らないが、赤は理由があって火の国の色となった。こんな小さな火の国に、赤という強大な色があるのは理由があって当然だ。有力な色、黒や白は大国を有しているからな。他もそうだ。青と黄も力のある国を持っている。私は、赤の心意気が嫌いじゃないんだ。――普通の色なら、赤丸も義藤も殺している。赤丸と義藤は、火の国に生まれたからこそ、今、その命はあるんだ」
悠真は先代の紅の息子たちを見た。厄色という表現が、悠真は嫌だった。まるで、赤丸の命が厄をもたらしているようなのだから。
「悠真は無色だ。その色に導かれて、黒の色神は火の国に来たのだろう?」
紅が黒の色神を目の前にしても怖気づかない。その堂々たる雰囲気は、赤と似ている。黒の色神は苦笑した。
「確かに、俺は無色がいるから火の国に足を運んだ。だが、それと同時にこの国に興味があったことも信じてくれ。宵の国は戦乱の国だ。ようやく平定されたが、未だに戦いの色香が強く残っている。俺には信頼できる仲間が少なく、敵が多い。俺は宵の国の未来を探しにきたのさ。もちろん、火の国を喰うことも頭にあったがな――今回の事態は、俺の失態であることは認めるさ。俺が赤丸に固執し、巻き込まれたんだからな。だからと言って、赤丸が厄色だからと責めるつもりはない。俺はまだまだ弱い。そして、敵である俺を救い、力を貸してくれた無色や柴らに感謝しなくてはならない」
黒の色神は若い男だ。柴より若いのは確かだ。なのに、落ち着きがあった。これが、宵の国の色神なのだ。