赤が救う命(9)
赤と黒、そして白は何も言わない。黒は黒の色神に抱きついたままだ。その仕草は子猫のようであった。
「どうすれば良い?」
義藤が尋ねると、白が口を開いた。
――身体に触れて、色を感じてください。術士ならば、分かるでしょう
白が言い、声の聞こえない義藤のために紅が通訳した。
「義藤は赤丸の身体に触れて、色を感じるんだ。お前なら分かる。大丈夫だ、細かな調整は私がする」
言うと紅は紅の石を取り出した。紅の石は輝きを持ち、そして義藤は赤丸の身体に触れた。
赤の色が揺らぎ、義藤は地に倒れた。
赤が流れている。赤丸から義藤へと、赤が流れている。流れる赤の速さを紅が調整している。何かが起こっているのは確かで、悠真は這って彼らに近づいた。
「大丈夫なの?」
尋ねたのは、悠真が不安だからだ。義藤が命を落とすことも、赤丸が命を落とすことも耐えられない。
「私は赤を信じている。だから、大丈夫だ」
義藤の額にも汗が浮かんでいる。倒れた義藤の身体に赤が巡っている。近しい色をしているとはいえ、色は違う。これで大丈夫といえるのだろうか。少しでも負担を軽くする方法を、悠真は知っている。
――止めなさい、悠真。
無色の声が悠真の脳裏に響いた。それでも悠真は止めることが出来なかった。そして、悠真は義藤と赤丸の身体に触れた。
そこは、赤い世界だった。
「悠真、もう終わりだ」
紅の声に悠真が赤い世界から引き戻されると、そこには眠る赤丸と義藤の姿があった。
悠真の身体を襲ったのは、強い疲労感だった。
「ありがとう、悠真」
一つ、紅が言った。
「いや、俺は……」
悠真は何と答えて良いのか分からなかった。
「俺からも礼を言う。ありがとう」
黒の色神が言った。既にそこには色たちはいなかった。
「赤たちは?」
尋ねると、紅が答えた。
「消えたよ。そもそも、赤たちは色だから、あまり私たちの世界に干渉しない。あれほどの色を目の前にしたのは、私も初めてさ」
紅は笑い、続けた。
「野江たちを呼ぶ前に、少し話をしないか?」
それに黒の色神も頷いた。紅は片膝を立てて、いつもの姿勢で座った。