赤が救う命(1)
赤い渦が消えた空間は、とても静かだった。悠真の心臓は強く脈打ち、痛いほどだった。赤が悠真の身体から溢れ出ているのだ。床に倒れたまま、悠真は紅と赤丸を見た。紅は色が弱まっているが、消えていない。逆に赤丸は、紅の鮮烈な赤色が身体から溢れていた。
「紅、赤丸!」
義藤らが一斉に駆け出した。
――礼を言うぞ、悠真。
赤の声が響いた。
――紅を救ったのは、悠真だけじゃなく厄色ね。厄色が命を捨てたから、紅は救われたのね。
黒が感心していた。何があったのか、義藤らは分からないようだった。離れたところにいる悠真であっても、彼らの様子は見て取れた。紅が身体を起こしたことも、赤丸の身体から赤が溢れ出ていることも、悠真は見て取れた。そして紅は赤丸の肩を揺すっていた。義藤は力が抜けたかのように蹲っている。すると、黒の色神が悠真の横に膝をついた。
「赤丸は死ぬ。お前は、それを許すことが出来るか?」
黒の色神の黒は疾風のごとき黒を持っていた。
「厄色を持つ者が本当にいるとはな」
黒の色神は低く呟いた。紅は泣いていた。紅が赤丸の肩を揺すっている。赤丸の身体から赤が零れている。傷ついた赤丸。疲労した赤丸。何より酷いのは、赤丸の身体に、限界を超えた色が溜まっていることだ。赤丸は色神ではない。色神のように色を身体に収束させることが出来ない。
黒の色神は動けない悠真の肩を叩いた。
「俺は、赤丸を死なせることが出来ない。それは、お前も同じだろ?」
そして黒の色神は立ち上がり、悠真の横に立つと言った。
「赤の色神」
黒の色神の声は、黒い色を放ちながら広がった。泣き崩れる紅の動きを止めたのは、黒の色神の声だ。そして黒の色神は続けた。
「全ての現況は、俺にある。俺が、火の国に興味を持ち、この国に足を運んだことから始まる。俺は、無色の小猿に暴走から救われた。そして、赤の色神は厄色に救われた。――赤の色神は、俺を救ってくれた。だからもう、火の国を喰おうなんてしないさ。少し、話をしないか?」
黒の色神はゆっくりと言った。
「赤の色神、ここで泣き崩れても何も変わらない。我らは色神だ。人でない。人であってはならないのだ。その悲しみも、苦しみも、悩みも、何も表してはならない。我らが堂々とせず、誰が色を敬うのだろうか。我らが悲しんでいて、誰が未来を見ることが出来るのだろうか。我らは人でない。色の力を受け継ぎ、色の石を生み出す力を手に入れた瞬間から、我らは人でなくなり、色神となったのだ。決して悩みを見せてはならない。赤の色神。あなたは力を手にしている。それは、揺るぎない仲間との信頼だ。俺が持っていないものだ。あなたは、一人じゃない。だから、あなたは強くならなくてはならない。非情は決断を下すとしても、あなたは強くならなくてはならない」
黒の色神の声は強かった。迷いがないのだ。その色が全てを示していた。