暴走する赤(9)
術をまともに使えない悠真であっても、赤を収束させる方法は分かっていた。悠真は床に横たわったまま、片手を赤い渦に向けた。赤丸が収束させようとしている紅に暴走。悠真はそれを補佐した。悠真の中に赤い色が流れ込んでくる。赤が悠真の中に流れ込むたび、悠真の心臓が痛いほど脈打った。視界が赤く塗られていく。同時に赤丸が収束している赤が見えた。
赤に染まったからこそ見える、詳細な赤の流れ。赤丸は紅の暴走の大半を収束させている。悠真が担っているのは、ほんの一端でしかない。赤丸は満身創痍だ。傷つき、疲労し、それでも紅のために戦っている。赤丸の頑張りが見えるからこそ、悠真は諦められないのだ。悠真の身体も悲鳴を上げていた。悠真も限界を迎えていたが、それでも諦めることが出来ない。紅の命を諦めることなど出来ない。
「悠真」
野江の声が響いた。術士として駆け出しで、悠真はいつも守られていた。だからこそ、踏ん張るときは踏ん張らなくてはならないのだ。
赤丸は紅に向かって足を進め続けていた。赤丸は赤を収束させている。しかし、その力は不十分であり、渦の中に入る赤丸の身体を守りきれていない。守りきれていない赤丸の身体は傷ついている。赤い血を流しながら、それでも赤丸は躊躇うことなく足を進めていた。
一歩。
また一歩。
そして一歩。
赤丸は足を進める。
そして赤丸は紅の近くまでたどり着いた。手を伸ばす赤丸は、片手を紅の肩にかけた。
赤丸に触れられたことで、紅の暴走はさらに強まった。もう、紅に意識があるのか分からない。赤い渦は強烈に強まり、悠真は収束させることが出来なかった。
「大丈夫だ、紅」
赤丸の声が優しく響いた。
「大丈夫だ」
赤丸はもう一度言い、そしてそのまま紅を後ろから抱きしめた。
紅が放った赤い色は容赦なく赤丸を追い込んだ。それでも赤丸は紅を離そうとしない。
「大丈夫」
赤丸は言い、紅の耳元に口を寄せた。そして紅の耳元で何かを囁いたかと思うと、赤い渦は突如消えた。
そして
紅は糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
赤い渦は突如掻き消え、崩れる紅を赤丸が後ろから支えていた。そして赤丸はゆっくりと紅を床に下ろすと、自らはそのまま後ろに倒れた。
全てが終わった瞬間だった。