暴走する赤(8)
黒は赤の服を掴み揺すっている。
――赤、あんた、それで良いの?赤はいっつもそう。そうやって、嫌味なほど他人の色を思って、嫌味なほど自分の色を後回しにするの。無色に助けを求めなさいよ。いつまで冷静でいるつもりなの?いつまで冷静にいるつもりなのって言っているの!赤、無色に助けを求めなさい。あたしを助けてくれたように、無色は赤も助けてくれる。あたしは、あの紅を死なせて良いとは思わない。次の紅が優れた紅だという保障はないんでしょ。赤、助けを求めなさいよ!
そして、黒は俯き震える声で言った。
――あの時、覚えている?赤が、こんな小さな火の国に追いやられたとき。本当なら、大きな国を手にすることが出来たでしょ。赤の力があれば、出来たはずでしょ。あの時も赤は人間を気にかけ、他の色との争いを避けて、言われるがままに火の国を選んだ。本当は、赤は狙っていないんでしょ。色の覇権を狙うと、口では言いながら、本当は赤は狙っていない。色の覇権なんて、狙っていない。無色が本気で抵抗すれば、赤は無色を諦める。出来たはずでしょ。何度も、無色を赤に染めることは。出来たはずでしょ。無理矢理、無色を赤に染めることは出来たでしょ。なんで、しなかったの?無色は赤の手の中にあったのに、赤は無色を握り締めなかった。分かっているの?赤は矛盾しているの。口で言動が矛盾しているの。無色に助けを求めてよ。無色は、赤を信じて火の国に姿を見えたに違いないんだから。
小さな黒が跳ねるのを止めた鞠のように静かだった。悠真は分からなかった。赤は何度も悠真の近くにいた。そして、悠真に赤に染まれと言った。しかし、それは言葉だけであり。無理に悠真を狙うことはしなかったのだ。
「色を貸してくれ」
悠真は再度、赤に言った。赤は目を見開き、一度目を逸らした。
「無色、それで良いだろ。俺は、紅を守りたいんだ」
悠真が言うと、静かな声が響いた。
――好きになさい。私は赤に甘えてばかり。悠真なら出来るわ。私は悠真を信じているのだから。
無色の声が響くと、赤が妖艶な目を細め、深く頭を下げた。それは、赤らしくない行動だった。そして顔を上げた赤は赤く塗られた指先を悠真に向けた。
――ありがとう。
赤い声が響いたかと思うと、悠真に赤い色が流れ込んできた。